マカバイ記 二 書簡 1

エジプト在住ユダヤ人への第一書簡 1 「エルサレムおよびユダヤの地に住むユダヤ人から、エジプト在住の兄弟たちに挨拶を送り、あなたがたの平安を祈る。 2 神があなたがたに恵みを与え、その忠実な僕アブラハム、イサク、ヤコブと結ばれた契約を心に留めてくださり、 3 あなたがたが神を敬い、強靭な心と積極的な精神をもって神の意志を実践するために、あなたがた全員に勇気を与えてくださるように。 4 神の律法と命令を守るにあたって、あなたがたの勇気を発揮させ、平安を与えてくださるように。 5 あなたがたの祈りを聞き入れ、あなたがたと和解し、悪の力がはびこるときにも、あなたがたをお見捨てにならないように。 6 我々はここで、あなたがたのために祈っている。 7 第百六十九年、デメトリオスが王位にあったときに、我々ユダヤ人は、当時数年続いて我々に襲いかかった艱難と危機のただ中で、あなたがたに書簡を送ったことがある。この艱難は、ヤソンとその一味の者たちが聖地と王国に反逆して立ち上がり、 8 神殿の門に火を放ち、罪なき人々の血を流したことで始まった。我々は主に祈り、聞き入れられたので、いけにえと上等の小麦粉を献げ、燭台に火をともし、パンを供えた。 9 今こそあなたがたも、このキスレウの月に、仮庵祭に倣って祝いをするように。 10 第百八十八年。」 エジプト在住ユダヤ人への第二書簡 「エルサレムおよびユダヤの住民と長老会議およびユダから、油注がれた祭司部族出身であり、プトレマイオス王の師でもあるアリストブロス、およびエジプト在住のユダヤ人に挨拶を送り、あなたがたが健やかであるように祈る。 11 かつて我々が王と戦っていたとき、神は我々を大いなる危険から救い出してくださった。我々は深く神に感謝している。 12 神聖な都で戦列を組んだ敵を神は撃退されたのである。 13 かの支配者とその無敵とも見えた軍隊は、ナナヤの神官たちの用いた巧妙な計略により、ペルシアに着いたとき、その神殿内で粉砕された。 14 アンティオコスは女神ナナヤと婚姻を結び、持参金として莫大な財宝を手に入れようと、王の友人たちと共にそこに現れた。 15 王はナナヤの神官たちが財宝を運んでくると、少数の者を従えて神殿の境内に入った。彼が入るやいなや、神官たちは神殿を閉め、 16 天井の格子に仕組まれた隠し扉を開いた。すると岩石が落下して、雷鳴のようなとどろきとともに、この支配者を打ち倒した。神官たちは、彼らの手足を切り離し、首を切り落として外にいる者たちに投げつけた。 17 何事においても、我らの神は賛美されますように。不敬虔な者どもを、このように亡き者とされたのだから。 18 我々は今、キスレウの月の二十五日に、神殿の清めの祭りを祝おうとしている。あなたがたにも仮庵祭のように、この灯火の祭りを祝ってほしいので、この灯火の祭りについて説明しておこう。この灯火は、ネヘミヤが神殿と祭壇を築き、いけにえを献げたときに現れたものである。 19 我々の先祖がペルシアに捕らわれて行ったとき、当時の敬虔な祭司たちは祭壇の聖火を持ち出し、それを、水のかれたある井戸の中にひそかに隠したが、そこはよい隠し場所だったので、だれにも知られないままになっていた。 20 それからかなりの歳月がたち、神のよしとされるときとなって、ペルシア王からユダヤへ派遣されたネヘミヤが、その火を手に入れるため、それを隠した祭司たちの子孫をそこに送った。 21 ところが彼らは火ではなく、粘りけのある水を見つけたと報告してきた。そこで、ネヘミヤは、それをくんで来るように命じた。いけにえが積み上げられたとき、ネヘミヤはその水を、まきとその上のいけにえに振りかけるように、祭司たちに言いつけた。 22 しばらくして、雲に隠れていた太陽が照りだすと、大きな炎が噴き上がったので、人々は非常に驚いた。 23 いけにえが焼き尽くされるまで、祭司たちと参列者一同は祈り続けた。その祈りはヨナタンが先唱し、それに一同が、ネヘミヤと共に唱和する形で行われ、 24 次のような祈りであった。『主よ、主よ、神であり、万物の造り主、畏れと力と正義と憐れみに満ち満ちた、唯一にして善なる王、 25 唯一の指導者、唯一正しく全能にして限りなく、イスラエルをすべての災いから救い出す方、先祖たちを選び、聖なる者とされた方。 26 あなたの民、全イスラエルのために、このいけにえを受け入れ、あなたの取り分を御覧になり、清めてください。 […]

マカバイ記 二 書簡 2

1 記録によると、捕らえられて行く人々に、かの火種を取って置くように命じたのは預言者エレミヤであった。 2 また、この預言者は、捕らえられて行く人々に律法の書を与え、主の掟を忘れないよう、また金銀の偶像やその装飾を見ても心を動かされないように命じている。 3 彼は更に言葉を変えて、心を律法から引き離すことのないようにと励ました。 4 更にこの書によれば、預言者は彼に与えられた託宣に従って、幕屋と契約の箱を携えて山へ出かけたという。モーセが神から約束の地を示された所である。 5 そこに到着したエレミヤは、人の住むことのできる洞穴を見つけ、そこに幕屋と契約の箱と香壇を運び込み、入り口をふさいだ。 6 一行の中の何人かが、道標を作ろうとして戻ってみたが、もはや洞穴を見つけることはできなかった。 7 このことを知ったエレミヤは、彼らを叱責してこう言った。『神が民の集会を召集し、憐れみを下されるときまで、その場所は知られずにいるだろう。 8 そのときになれば、主はそこに運び入れたものを再び示してくださり、主の栄光が雲とともに現れるだろう。モーセに現れたように、また、ソロモンが神殿の聖別式を厳かに行ったとき現れたように。 9 知者ソロモンは、神殿の新築と完成を祝っていけにえを献げたと伝えられている。 10 モーセが主に祈ったとき、天から火が下ってきていけにえを焼き尽くしたように、ソロモンが祈ったときも、火が下ってきて焼き尽くす献げ物を焼き尽くした。 11 モーセは言っている。「贖罪の献げ物を食べなかったので、天からの火がそれを焼き尽くしたのだ」と。 12 ソロモンもまた、モーセ同様八日の間祭りを行った。』 13 ネヘミヤ時代の諸文書や覚書には同様なことが記述されているほか、ネヘミヤが書庫を建て、歴代の王と預言者に関する書物、ダビデの諸文書、更には奉納物についての王たちの勅令を集めたことも記されている。 14 ユダもまた戦争のため散逸した文書を、我々のためにすべて集めてくれたので、それは現在、我々の手もとにある。 15 そこでもし、これらの文書があなたがたに必要なら、使いをよこしなさい。 16 さて我々は今、清めの祭りを祝おうとして、あなたがたに手紙をしたためた。それというのも、あなたがたがこれらの日を祝う以上、立派に執り行ってほしいからである。 17 神こそは、御自分の民全体を救い、それぞれに約束の地を与え、王制と祭司制と聖所を与えてくださった方である。 18 我々は今、律法を通して約束されたように、神が我々を憐れみ、速やかに天が下すべての地から、我々を聖なる所に集めてくださることを希望している。実に神は、過酷な災禍から我々を救い出し、この場所を清められたのである。」 序 19 以下のことはキレネ人ヤソンが五巻の著作に明記していることである。すなわち、ユダ・マカバイとその兄弟たちに関する事柄、大いなる神殿の清めと祭壇の奉献、 20 更にアンティオコス・エピファネスとその息子エウパトルに対しての戦い、 21-22 ユダヤ人の宗教を守り抜くため雄々しく戦った者たちに天から示された数々のしるし、すなわち、寛大なる主の憐れみにより、彼らが少人数にもかかわらず、全地方を奪回し、野蛮な異邦人たちを追い払い、全世界に聞こえた神殿を取り戻し、都を解放し、まさに瀕死の律法を蘇生させたこと、等々。 23 以上の五巻の事柄を、我々は一巻に要約したい。 24 それというのもヤソンの書は、物語の展開のみに興味を持つ人には、数字が多すぎ、資料が煩雑すぎると思われるからである。 25 物語の筋を追ってみたい人を夢中にさせ、暗唱したい人にはそれを容易にさせ、ともかくこの本を手にするすべての人に役立つように努めたい。 26 要約を自らに課してみたものの、これは心を削り、身をそぐ仕事であって、容易なことではない。 27 ちょうど、他人のために宴会の裏方に徹するときの苦労のように、多くの人を喜ばすためには、進んでこの労苦を我慢もしよう。 28 事細かな著述は著者ヤソンに譲り、我々は要約を記すことに徹しよう。 […]

マカバイ記 二 書簡 3

ヘリオドロスの物語(3 1―40) シモンの裏切り 1 さて、聖なる都は、完全な平和のうちに治められ、律法も非常によく守られていた。それは大祭司オニアの敬虔と悪への憎しみによるものであった。 2 当時は、諸国の王も聖地に敬意を払い、最上の贈り物をもって神殿に栄光を増し加えていた。 3 アジアの王セレウコスでさえ、いけにえに要するすべての出費を、王国の歳入から提供していた。 4 ところがビルガ族の出身で、神殿総務の長であるシモンという男が、都の市場の経営方針をめぐって、大祭司と衝突した。 5 形勢不利と見た彼は、当時コイレ・シリアとフェニキアの総督であった、トラサイアスのアポロニオスのもとに行き、 6 「エルサレムの宝庫には莫大な金があふれています。しかもいけにえのために使われている様子はないので、これを王の権限下に置くことが可能です」と告げた。 7 アポロニオスは王に謁見のおり、自分に密告のあった金について報告した。すると王は、宰相ヘリオドロスを選び、くだんの金を運び出せとの命令を与えて派遣した。 8 コイレ・シリアとフェニキアの町々の視察という名目で、ヘリオドロスは即刻出立した。しかし、実は、王の命令を実行するためであった。 9 エルサレムに到着した彼は、都の大祭司から友好的な歓迎を受けた後、例の情報と来訪の真意を告げ、聞き及んだ事について問いただした。 10 大祭司は言った。「その金は、やもめや孤児たちのための預託金であり、 11 他にあるとすれば、非常に身分の高いトビヤ家のヒルカノスのものである。あの神を畏れぬシモンが何を言っているか知らぬが、全額では銀四百タラントン、金二百タラントンである。 12 人々はこの場所が神聖であり、全世界の崇敬の的であるので、不正など起こりえないと信じている。どうしてその人たちを裏切るような支出ができようか。」 13 それに対しヘリオドロスは、王命を盾に取って、これらのものは王の宝庫のために没収すべきだと主張してやまなかった。 14 彼は執行日を定めると、調査のために中に入って行った。町全体が、大きな不安に包まれた。 15 祭司たちは祭服を着ると祭壇の前に身を投げ出し、天に向かい、預託金に関する律法を定めた方に嘆願して、「預けた人々のために、預託金を無事に守ってください」と言った。 16 大祭司の姿は見る者の心を痛めた。そのふるまいや表情には、内面の苦悩が表れていた。 17 彼は全身恐怖に包まれ、体が小刻みに震えていた。彼を見るすべての人に、その心の苦悶が伝わってきた。 18 聖所が今にも汚されようとしているので、男たちはこぞって家から飛び出すと、一丸となって嘆願の祈りをした。 19 胸の下を粗布で覆った女たちが、ちまたに群れを成し、ふだんは家にこもっている未婚の娘たちの中には、門に群れ走り、あるいは城壁に駆け登り、あるいは窓辺に立って身を乗り出す者がいた。 20 いずれにしても全員が、両手を天に差し伸べて哀願していた。 21 入り乱れてひれ伏す群衆や、大祭司の激しい苦悩の姿は、まことに痛ましかった。 22 人々は、預託金に万一のことがないように、預託者のためにそれを必ず守ってください、と全能の主に呼び求めた。 23 しかし、ヘリオドロスは決意を実行に移した。 ヘリオドロス、罰せられる 24 彼がその護衛兵と共に宝庫に足を踏み入れたまさにそのとき、霊とすべての権威を支配する者のすさまじい出現があり、不遜な侵入者たちは皆、神の力の一撃におののいて腰を抜かした。 25 見る者を震え上がらせるような騎士を乗せ、絢爛たる馬具で飾り立てた馬が現れ、ヘリオドロス目がけて前足のひづめで猛然と襲いかかった。馬上には金の鎧で身を固めた者が見えた。 26 […]

マカバイ記 二 書簡 4

アンティオコス・エピファネスのもとでの迫害(4 1―10 8) オニアとシモンの争い 1 さて財宝と祖国をざん訴した例のシモンは、今度はオニアの悪口を言い、「ヘリオドロスを襲い、諸悪の元になったのは彼だ」と言って、 2 この都の功労者、同胞の保護者、律法の熱愛者を、強引に謀反人呼ばわりした。 3 人々の間に敵意が広がり、ついにはシモンの腹心の一人が、暗殺に訴えようとした。 4 オニアはこのままでは戦いになると恐れ、またメネステウスの息子でコイレ・シリア、およびフェニキアの総督アポロニオスが、シモンのこの悪事に加担していることも察知し、 5 王のもとに出かけて行った。同胞市民を告発するためではなく、市民全体の、公私両面にわたる益を考えてのことである。 6 彼は、王の手を煩わせる以外には、平和裡に事態を収拾することも、シモンにその愚行を思いとどまらすことも不可能だと思ったからである。 大祭司ヤソン、ギリシア文化を導入する 7 セレウコスが他界し、エピファネスと呼ばれるアンティオコスが王位を継承したとき、オニアの弟ヤソンは大祭司職を卑劣なやり方で手に入れた。 8 彼は王に謁見のおり、銀三百六十タラントンと、そのほか別の収入源から八十タラントンを約束した。 9 その上、大祭司の職務のほかに、もし王が、錬成場を設立し、そこに若者を集め、エルサレムで住民をアンティオキア市民として登録する権限をも彼に与えてくれるなら、更に、百五十タラントンを渡すと約束した。 10 王の後ろ盾で大祭司の地位を得た彼は、直ちに同胞の生活をギリシア風に変えさせた。 11 ヤソンは、王がエウポレモスの父ヨハネを通してユダヤ人に与えていた数々の恩典を取り消し、律法に沿った生活様式を破壊し、律法に背く風習を新たに取り入れた。このエウポレモスとは、ローマ人との友好と同盟関係を図って使節の役をしたことのある人物である。 12 ヤソンは図に乗って城塞の下に錬成場を建設し、頑健な青年たちには、一斉につばの広いギリシア帽をかぶらせた。 13 こうしてギリシア化と異国の風習の蔓延は、不敬虔で、大祭司の資格のないヤソンの、常軌を逸した悪行によって、その極みに達した。 14 その結果、祭司たちももはや祭壇での務めに心を向けなくなり、神殿を疎んじ、いけにえを無視し、円盤が投げられて競技の開始が告げられると、格闘競技場で行われる律法に背く儀式にはせ参じる始末であった。 15 彼らは、父祖伝来の名誉をないがしろにした反面、ギリシア人の栄光には、最大限の評価を与えた。 16 こうしたことが原因となって、ひどい苦難が彼らを見舞うことになったのである。彼らがその生活様式にあこがれを抱き、万事において仲間に入りたいと願っていた人々がまさに、彼らの敵、彼らに対する迫害者となったのである。 17 神が定めた律法を冒涜して、ただで済むわけがない。それは間もなく明らかになるであろう。 18 ティルスでは、王の臨席の下に、五年ごとに行われる競技会があったので、 19 この汚れた男ヤソンは、エルサレム住民の中から、アンティオキア市民の資格を持っている人々を観客として送り込んだ。その際、ヘラクレスに献げるためのいけにえの費用として、銀三百ドラクメを彼らに持参させた。ところがこれを持参した男たちは、「いけにえに用いるのは適当ではない。むしろ他の費用のために取っておこう」と考えたのである。 20 実際、彼らを送った人が、ヘラクレスのためにいけにえ用としたはずのこの銀は、それを持参した人々によってガレー船を仕立てる船賃にあてがわれてしまった。 アンティオコス・エピファネス、エルサレムで歓迎される 21 アンティオコスは、メネステウスの子アポロニオスをフィロメトル王の即位式に参列させるために、エジプトに派遣した。この結果彼は、フィロメトルが彼のとった措置を快く思っていないという情報を得たので、用心のためヤッファを経て、エルサレムにやって来た。 22 彼は松明と歓呼のうちに、ヤソンとエルサレムの町の大歓迎を受け、その後、フェニキアに陣を敷いた。 メネラオス、大祭司となる 23 三年後、ヤソンは、前に触れたシモンの兄弟メネラオスをアンティオコス王のもとに派遣した。金を持参して、差し迫った事態について王の指示を仰ぐためであった。 24 王に会うと、メネラオスは王を褒めちぎり、大物を気取り、ヤソンよりも銀三百タラントンも多く出し、大祭司職を奪い取った。 […]

マカバイ記 二 書簡 5

空中を駆ける騎士の出現 1 そのころ、アンティオコスは再度のエジプト攻撃の準備をしていた。 2-3 折から、全市におよそ四十日にわたり、金糸の衣装をまとい、槍と抜き身の剣で完全武装した騎兵隊が空中を駆け巡るのが見えるという出来事が起きた。すなわち、隊を整えた騎兵がおのおの攻撃や突撃をし、盾が揺れ、槍は林立し、投げ槍が飛び、金の飾りやさまざまな胸当てがきらめいた。 4 そこで人は皆、この出現が吉兆であるようにと願った。 ヤソンの反撃と死 5 アンティオコスが他界したという偽りの噂が流れると、ヤソンは千人を下らぬ部下を率いて、突如、都に徹底的な攻撃を加えた。城壁上の兵士たちが撤退し、都が陥落寸前になると、メネラオスは城塞内に逃げ込んだ。 6 ヤソンは同胞市民の虐殺をほしいままにした。だが、自分の同族に対して勝利を得ても、その日は実は敗北の日なのだということに気づかなかった。彼は敵の敗北を記念する碑を打ち立てることができたと思っていたが、それは同胞の敗北記念碑であったのだ。 7 彼は結局権力を奪うことはできず、この陰謀の結果として屈辱的な逃亡を余儀なくされ、再度アンモンの地に至った。 8 彼の罪深い行状にも終わりが来た。アラビアの独裁王アレタによって投獄され、その後町から町へと逃げ回り、すべての人から追跡され、律法の離反者として憎まれた。彼は祖国とその市民の死刑執行人として忌み嫌われ、エジプトへと追いやられてしまった。 9 多くの人を祖国から追放したこの男は、先祖を同じくするよしみで保護を求め、ラケダイモン人の地に向かい、異郷で死んでしまった。 10 多くの人々を埋葬もせずに打ち捨てたこの男には、今や、その死を悼む者も葬式を挙げてくれる者もなく、父祖伝来の墓に納めてもらうことさえできなかった。 アンティオコス・エピファネスの弾圧 11 さて、事件の知らせが王のもとに届いたとき、王はユダヤに反乱が勃発したと判断し、たけりたってエジプトをたち、エルサレムを武力で奪い取った。 12 更に兵士たちには、出会う者は容赦なく切り殺し、家に逃れる者も殺してしまうよう命じた。 13 こうして、若者たちと老人たちの死体があふれ、女と子供が一掃され、娘たちと乳飲み子たちも虐殺されたのである。 14 まる三日間に、八万人もの犠牲者が出たが、そのうち四万人が剣によって殺され、それに劣らぬ数の人々が奴隷として売られてしまった。 神殿の略奪とエルサレムでの大量殺戮 15 さてそれでもまだ飽き足らず、アンティオコスは、この世でいちばん神聖な神殿に無謀にも足を踏み入れた。その手先となったのが、律法と祖国を裏切ったあのメネラオスである。 16 王は血に汚れた手に聖なる祭具を取った。諸国の王が、神殿に栄光と栄誉を添えるために奉納した聖なる祭具を、その汚れた手で略奪した。 17 アンティオコスはすっかり尊大になっていたために、この町の住民の罪のために主が一時的に怒られ、だからこそ彼が聖なる場所を荒らすことができたのだということを見落としていた。 18 もし民がこれほど多くの罪にのめり込んでいなかったなら、この男といえども、かつてセレウコス王に派遣されて宝庫の調査をしようとしたヘリオドロスの場合と同じように、神殿に足を踏み入れた瞬間に、鞭打たれ、その暴挙は許されるものではなかった。 19 主はこの民族のために聖なる場所を選ばれたのであって、聖なる場所のために民を選ばれたのではない。 20 だから聖なる場所そのものも民の災いを共に分かち合い、後になって繁栄を共にした。全能者の怒りのために捨てられた聖なる場所は、偉大な主との和解が実現したとき、満ちあふれる栄光のうちに再興されたのである。 21 さて、神殿から千八百タラントンを持ち出したアンティオコスは、アンティオキアに向けて急ぎ帰った。心のおごっていた彼は、陸でも船で、海でも徒歩で行けると思い上がっていた。 22 しかし彼は、ユダヤ民族を虐待するために各地に総督を残した。エルサレムには任命者よりも野蛮な気質のフリギア出身のフィリポスを、 23 ゲリジム山にはアンドロニコスを残した。この二人に加え、メネラオスも残したが、彼はユダヤ市民に対して敵意を燃やしていたので、三人の中では同胞市民に対して最も高飛車にふるまった。 24 王はまた、アンティオキアからムシア人アポロニオスを、二万二千の兵と共にエルサレムに派遣し、成人した男子をことごとく切り殺し、女と子供は売り飛ばすように、と命じた。 25 この男はエルサレムに着くと、さも友好的であるかのようにふるまい、安息日という聖なる日が来るのを待った。ユダヤ人たちが仕事を離れるやいなや、配下の者たちに武装行進を命じた。 26 何事かと思って出てきた人々全員を刺し殺したうえで、武装兵と共に市内になだれ込み、大量の殺戮を行った。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 6

異教礼拝の強要 1 その後程なく、王はアテネ生まれの長老を派遣した。王は、ユダヤ人を無理やりに父祖伝来の律法から引き離し、神の律法に沿った生き方を禁じ、 2 エルサレムの神殿を汚し、その神殿をゼウス・オリンポスの宮と呼ばせ、地域住民が集まってくるゲリジム山の神殿をゼウス・クセニオスの宮と呼ばせた。 3 のしかかってきた悪は、すべての人にとってまことに耐え難く、不愉快極まりないものだった。 4 実際、神殿には娼婦と戯れる異邦人たちの乱痴気騒ぎが充満し、境内では女たちとの交わりが行われるようになった。その上、禁じられている物まで持ち込まれ、 5 祭壇には、律法によって禁止されたものが山のように供えられた。 6 今や安息日を守ることも、父祖伝来の祝祭を執り行うこともできず、自分がユダヤ人だということさえ、公然とは口にできなくなった。 7 毎月、王の誕生日には、いけにえの内臓を食べることを、有無を言わせず強制され、ディオニソスの祭りがくると、つたの冠をかぶり、ディオニソスのための行列に参加することを強制された。 8 プトレマイオスの進言で、近隣のギリシアの支配下にある町々に勅令が出た。それによって、それらの町々も、ユダヤ人に対しては同様の政策をとり、彼らにいけにえの内臓を食べさせることとし、 9 ギリシア的慣習に進んで従わない者は、殺すことになった。試練の嵐は目前に迫った。 10 息子に割礼を施したという理由で、二人の女が引き出された。その胸には乳飲み子をかけられ、彼女たちは公衆の面前で町中引き回されたあげく、城壁から突き落とされた。 11 また、近くの洞穴に逃げ込み、ひそかに集って安息日を守っていた人々があったが、フィリポスに密告された。その人々は、尊ぶべき日を守りたいと切望して信仰深く身を持し、あえて防御しなかったので、皆、焼き殺されてしまった。 神は御自分の民を見捨てられない 12 さて、わたしはこの書を読む者がこのような災難に気落ちせず、これらの罰は我々民族を全滅させるためのものではなく、むしろ教訓のためであると考えるよう勧めたい。 13 我々の場合、主を汚す者を主はいつまでも放置せず、直ちに罰を下される。これは大いなる恵みの印である。 14-15 他の国民の場合、主は、彼らの罪の芽が伸びるだけ伸びるのを、じっと待っておられるが、我々に対して直ちに罰を下されるのは、芽が伸びきらないうちに摘んでしまうためである。 16 主はわたしたちへの憐れみを決して忘れられない。主は、災いをもって教えることはあっても、御自分の民を見捨てられることはないのだ。 17 以上のことを心に留めて、直ちに物語の本筋に戻ろう。 エレアザルの殉教 18 さて律法学者として第一人者で、既に高齢に達しており、立派な容貌の持ち主であったエレアザルも、口をこじあけられ、豚肉を食べるように強制された。 19-20 しかし彼は、不浄な物を口にして生き永らえるよりは、むしろ良き評判を重んじて死を受け入れることをよしとし、それを吐き出し、進んで責め道具に身を任そうとした。これこそ、生命への愛着があるとはいえ、口にしてはならないものは断固として退けねばならない人々の取るべき態度である。 21 ところがそのとき、禁じられたいけにえの内臓を食べさせる係の者たちは、エレアザルと旧知の間柄であったので、ひそかに彼に席を外させて、王が命じたいけにえの肉を口にした振りをして、彼自身が用意し、持参している清い肉を食べることを勧めた。 22 そうすれば、彼は死を免れ、その上、彼らとの昔からの友情のゆえに優遇されることになるからであった。 23 これに対して、彼は筋の通った考えを持っていて、その年齢と老年のゆえの品位、更に新たに加わった立派な白髪、だれにもまさった幼いときからの生き方にふさわしく、とりわけ神が定められた聖なる律法に従って、毅然とした態度でちゅうちょすることなく、「わたしを陰府へ送り込んでくれ」と言った。 24 「我々の年になって、うそをつくのはふさわしいことではない。そんなことをすれば、大勢の若者が、エレアザルは九十歳にもなって異教の風習に転向したのか、と思うだろう。 25 その上彼らは、ほんのわずかの命を惜しんだわたしの欺きの行為によって、迷ってしまうだろう。またわたし自身、わが老年に泥を塗り、汚すことになる。 26 たとえ今ここで、人間の責め苦を免れえたとしても、全能者の御手からは、生きていても、死んでも逃れることはできないのだ。 27 だから今、男らしく生を断念し、年齢にふさわしい者であることを示し、 28 若者たちに高貴な模範を残し、彼らも尊く聖なる律法のためには進んで高貴な死に方ができるようにしよう。」こう言い終わると、直ちに責め道具の方へ歩いて行った。 […]

マカバイ記 二 書簡 7

七人兄弟の殉教 1 また次のようなこともあった。七人の兄弟が母親と共に捕らえられ、鞭や皮ひもで暴行を受け、律法で禁じられている豚肉を口にするよう、王に強制された。 2 彼らの一人が皆に代わって言った。「いったいあなたは、我々から何を聞き出し、何を知ろうというのか。我々は父祖伝来の律法に背くくらいなら、いつでも死ぬ用意はできているのだ。」 3 王は激怒した。そして大鍋や大釜を火にかけるように命じた。 4 直ちに火がつけられた。王は命じて、他の兄弟や母の面前で、代表して口を開いた者の舌を切り、スキタイ人がするように頭の皮をはぎ、その上、体のあちらこちらをそぎ落とした。 5 こうして見るも無残になった彼を、息のあるうちにかまどの所へ連れて行き、焼き殺すように命じた。鍋から湯気が辺り一面に広がると、兄弟たちは母ともども、毅然として、くじけることなく死ねるよう互いに励まし合い、そして言った。 6 「主なる神がわたしたちを見守り、真実をもって憐れんでくださる。モーセが不信仰を告発する言葉の中で、『主はその僕を力づけられる』と明らかに宣言しているように。」 7 こうして最初の者の命を奪うと、次に二番目の者を引き出し、これを辱めた。頭の皮を、髪の毛もろともはぎ取ってから、「肉を食え。それとも体をばらばらにされたいのか」と言った。 8 しかしそれに対して彼は、父祖たちの言葉で、「食うものか」と答えた。そこで彼は最初の者と同じように拷問にかけられた。 9 息を引き取る間際に、彼は言った。「邪悪な者よ、あなたはこの世から我々の命を消し去ろうとしているが、世界の王は、律法のために死ぬ我々を、永遠の新しい命へとよみがえらせてくださるのだ。」 10 彼に続いて三番目の者もなぶりものにされた。彼は命ぜられると即座に舌を差し出し、勇敢に両手を差し伸べ、 11 毅然として言った。「わたしは天からこの舌や手を授かったが、主の律法のためなら、惜しいとは思わない。わたしは、主からそれらを再びいただけるのだと確信している。」 12 そこで、王自身も、供の者たちも、苦痛をいささかも意に介さないこの若者の精神に驚嘆した。 13 やがて彼も息を引き取ると、彼らは四番目の者も同様に苦しめ、拷問にかけた。 14 死ぬ間際に彼は言った。「たとえ人の手で、死に渡されようとも、神が再び立ち上がらせてくださるという希望をこそ選ぶべきである。だがあなたは、よみがえって再び命を得ることはない。」 15 続いて五番目の者を引き出して拷問にかけた。 16 彼は王を見つめて言った。「あなたは朽ちるものであるのに、人々に君臨し、何でも好き勝手なことをしている。しかし、わが民族が神から見捨てられたなどとゆめゆめ思うな。 17 やがてあなたは、神の力の偉大さを思い知るだろう。神はあなたとあなたの子孫を苦しみに遭わせるからだ。」 18 それから六番目の者が引き出された。彼は死を目前にしてこう言った。「思い違いも甚だしい。我々は我々の神に対して罪を犯したため、このような目に遭っているのだ。いかなる罰であろうとも致し方ない。 19 しかし、あなたは神を敵にしたのだ。ただでは済まないぞ。」 20 それにしても、称賛されるべきはこの母親であり、記憶されるべき模範であった。わずか一日のうちに七人の息子が惨殺されるのを直視しながら、主に対する希望のゆえに、喜んでこれに耐えたのである。 21 崇高な思いに満たされて、彼女は、息子たち一人一人に父祖たちの言葉で慰めを与え、女の心情を男の勇気で奮い立たせながら、彼らに言った。 22 「わたしは、お前たちがどのようにしてわたしの胎に宿ったのか知らない。お前たちに霊と命を恵んだのでもなく、わたしがお前たち一人一人の肢体を組み合わせたのでもない。 23 人の出生をつかさどり、あらゆるものに生命を与える世界の造り主は、憐れみをもって、霊と命を再びお前たちに与えてくださる。それは今ここで、お前たちが主の律法のためには、命をも惜しまないからだ。」 24 アンティオコスは侮辱されたと感じ、その声に非難の響きを聞き取った。彼は、いちばん末の息子がまだ生きていたので、言葉で勧告するだけでなく、誓いをもって、「もし先祖の慣習を捨てるなら、富と最高の幸福を保障し、王の友人として遇し、仕事も与えよう」と約束した。 25 だが、若者が全く耳を貸そうとしないので、王は母親を呼び寄せて、少年を救うために一役買うようにと勧めた。 26 王があまりに強く勧めるので、母親は息子を説得することを承知した。 27 しかし母親は、若者の上に身をかがめ、残酷な暴君をあざけってから、父祖たちの言葉で言った。「わが子よ、わたしを憐れんでおくれ。わたしはお前を九か月も胎に宿し、三年間乳を含ませ、養い、この年になるまで導き育ててきました。 […]

マカバイ記 二 書簡 8

ユダ・マカバイの反乱 1 マカバイとも呼ばれるユダとその同志は、ひそかに村々に忍び込むと、親族を呼び集め、ユダヤ人としての生き方を貫いてきた者たちを仲間に加え、およそ六千人を集めた。 2 彼らは主に向かって嘆願し続けた。「主よ、すべての人々に踏みにじられている民に目を留め、不敬虔な者どもによって汚された神殿を憐れみ、 3 破壊されて廃虚同然の都を慈しみ、あなたに訴える血の叫びに耳を傾けてください。 4 そしてまた、罪なき幼児が無法にも殺戮されたことを忘れず、あなたの御名を冒涜した者どもを憎んでください。」 5 マカバイが軍を指揮し始めると、異邦人たちは抵抗できなくなった。主の怒りが、憐れみに変わったのだ。 6 彼は、町や村を不意に襲って、火を放ち、要所を奪還し、少なからざる敵を敗走させた。 7 彼は同志と共にこの種の襲撃を、夜間を選んで実行した。彼の武勇は、至るところに広まった。 ニカノルとの戦い 8 フィリポスはユダが徐々に兵を進め、勝利を重ねてゆくのを見て、コイレ・シリアとフェニキアの総督プトレマイオスに、王が直面している難局に力を貸してくれるよう書簡を送った。 9 そこでプトレマイオスは、直ちに王の第一の友人の一人パトロクロスの子ニカノルを任命し、二万人を下らぬ諸民族から成る混成部隊を与え、ユダヤ全民族を根絶やしにするために派遣した。その際プトレマイオスは、戦争の経験豊かな将軍ゴルギアスを付けてやった。 10 ニカノルはユダヤ人を捕虜にし、それを売って、王がローマ人に納めるべき二千タラントンを捻出しようと考えた。 11 彼は、すぐさま沿岸の町々に、ユダヤ人の売買について使者を送り、一タラントンで奴隷九十人を譲り渡すという約束で呼びかけた。彼は、全能者の裁きが、まさに下されようとしていることなど、夢にも考えていなかったのである。 12 さて、ニカノル進撃の急報が入ったので、ユダは敵軍の襲来を同志に告げた。 13 すると、臆病なうえに神の裁きを全く信じない者たちは、四方八方に逃げ出し、戦列を離れ去った。 14 だが、とどまった者たちは、手もとに残っているものをすっかり処分し、声を合わせて主に祈り求めた。「神を畏れぬニカノルによって、まだ戦いも始まらないうちに奴隷に売られたわたしたちを救ってください。」 15 彼らは自分たちのゆえに祈ったのではなく、先祖たちとの契約のゆえ、また、威厳と壮大さに満ちた主の御名によって自分たちが呼ばれているという自覚からそう祈ったのであった。 16 そこでマカバイは、自分のもとにとどまった六千人を集めて激励した。「敵を前にして浮き足立つな。不当にも我々に立ち向かう異邦人の大軍に臆することなく、雄々しく戦うのだ。 17 敵どもが律法を足げにして聖なる場所に対して働いた侮辱や、凌辱された都の惨状、また、父祖伝来の生活様式が崩壊させられたことを、一時も忘れないように。」 18 彼は言った。「敵どもは武器と大胆さに、我々は全能の神の力に依り頼む。神は我々に襲いかかってくる者どもはもちろん、全世界さえも、一度首を振るだけで打ち倒すことがおできになるのだ。」 19 更にユダは、先祖が体験した数々の助けを数え上げた。すなわち、センナケリブの襲来に際し、十八万五千の敵勢をどのようにして滅ぼしたか、 20 また、バビロニアでのガラテヤ人との戦いに際し、総勢八千のユダヤ人が四千人のマケドニア人を率いて救援に駆けつけたが、マケドニア人が進退窮まったとき、ユダヤ人たちがどのように天からの助けを得て、六千人で十二万人を滅ぼし、多くの戦利品を得たかを語って聞かせた。 21 こうしてユダは同志を奮い立たせ、律法と祖国のために死ぬ覚悟を固めさせた後、軍を四隊に分け、 22 自分の兄弟シモン、ヨセフ、ヨナタンをそれぞれ各部隊の指揮官に任じて、各自に兵千五百人を配した。 23 更にエレアザルに聖なる巻物を朗読させ、「神の助け」を合言葉として彼らに与えた。そしてユダは、自ら第一部隊の先頭に立ってニカノルと対戦した。 24 全能者が共に戦ってくださったので、九千を上回る敵を殺戮し、更にニカノル軍の大部分の兵士たちに傷を負わせて手足を不自由にし、総退却を余儀なくさせた。 25 また、自分たちを奴隷として買い取ろうとして待機していた者たちの金を奪い取り、存分に敵を追いまくった後、日没が迫ったので、打ち切った。 26 その日は安息日の前日だったため、追撃を続けられなかったのである。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 9

アンティオコス・エピファネスの末路 1 ちょうどそのとき、アンティオコスはペルシアの町々から、無残な退却を余儀なくされていた。 2 彼は、ペルセポリスという町に入り、神殿を略奪し、町を制圧しようとしたが、多くの者たちが騒ぎだし、彼に対して武装決起した。こうして彼は、その地の住民に追いまくられ、恥辱の敗退をすることになったのである。 3 彼がエクバタナに着くと、ニカノルとティモテオスの軍についての情報が届いた。 4 彼は怒りにかられ、自分の敗退の恨みをユダヤ人で晴らそうと思い、天の裁きが自分の上に臨んでいるというのに、戦車を駆る者に、休むことなく全行程をひたすら走り抜けと命じ、「エルサレムに着いたら、そこをユダヤ人どもの共同墓地にしてやる」と豪語した。 5 しかし、この言葉を言い終えるやいなや、彼の五臓六腑に激痛が走った。すべてを見通されるイスラエルの神、主が、目に見えぬ致命的な一撃を彼に加えられたのである。 6 常軌を逸した度重なる拷問で他人の内臓を痛めつけた男には、当然の罰であった。 7 しかし、彼は不遜な態度を改めるどころか、ますます増長し、ユダヤ人に対して憤怒の炎を燃やし、命じて先を急がせた。だが、彼はごう音を響かせて疾走する戦車から振り落とされ、落ち方が悪かったため、あらゆる関節が外れ、傷だらけとなった。 8 彼は今の今まで、人間の分をわきまえずにのぼせ上がり、海の波に命令を下し、高い山を天秤に載せようとすら考えていたのに、地面に投げ出され、担架で運ばれる始末であった。こうして神の力は万人の前に明らかにされた。 9 この神を畏れぬ者の両目からは蛆がわきだし、激痛にさいなまれつつ、その肉は生きながらに崩れ、全陣営がその腐臭に悩まされた。 10 先刻まで、天の星をもつかみ取ると豪語していた男なのに、立ちこめる耐え難い悪臭のために、だれも彼を運ぶことができなくなった。 11 こうして、さすがの彼の高慢も完膚なきまでに砕かれ、神の鞭の一打ちごとに痛みも増し加わり、神の力を思い知ることとなった。 12 ついに、彼自身もその悪臭に耐えられなくなって、こう告白した。「神に服従することは正しく、死すべき者が、思い上がってはならないのだ。」 13 この汚れた男は、憐れみを望むべくもないのに、主に向かって、こう約束した。 14 「わたしは、聖なる都を破壊し、共同墓地にしてしまおうと急ぎ赴いていましたが、その都に自由を宣言します。 15 また、わたしはユダヤ人など埋葬に値せず、鳥のえさぐらいに考えて、幼子もろとも猛獣に投げ与え、後は鳥のついばむにまかせようと思っていましたが、そのユダヤ人全員を、アテネ市民と同等なものといたします。 16 さきに略奪した聖なる神殿を最上の奉納物で飾り、すべての聖なる祭具は何十倍にもして返し、いけにえのための経費は、自分の収入で賄います。 17 更にわたし自身もユダヤ人となり、神の力を宣べ伝えるために、人の住む所は、どこへでも参ります。」 アンティオコスのユダヤ人への手紙 18 しかし激痛が全く去らなかったので――神の正しい裁きが下ったからである――彼は、絶望のあまり、ユダヤ人に向けて次のような哀訴の手紙を書いた。その内容は、以下のとおりである。 19 「王であり総司令官であるアンティオコスより、善良なユダヤ人市民に深甚なる挨拶を送り、健康と繁栄を祈る。 20 もし、あなたがたが健康であり、子供と財産もあなたがたの望みどおりになっているのなら、天に希望を抱いているわたしも、大いに神に感謝するものである。 21 病に倒れてみると、あなたがたから受けた尊敬と好意が懐かしく思い出されてくる。ペルシア地方から引き返す途中、わたしは、やっかいな病気にかかり、万人の安全を配慮する必要を痛感している。 22 わたしは、この身に起きたことについて、絶望しているわけではなく、回復の希望を大いに抱いている。 23 かつてわたしの父は、北方に遠征したときに、後継者を任命したが、それは、 24 万一何か予期に反することが起こったり、面倒な知らせが届いたりしたときに、その地方の人々が、だれに後事が託されているかを承知していれば、騒ぐこともないという理由からであった。今わたしはそれを思い出し、 25 更に、王国の近隣の領主たちが折をうかがい、事の成り行きに注目しているのを知って、ここにわたしも、息子のアンティオコスを王に指名する。わたしが北方諸州に急行した際、あなたがたの多くの者に再三託し、かつ推薦したあの息子である。ここに記したことを、わたしは彼にも書き送ってある。 26 だから、どうか公私にわたってわたしから受けた恩義を忘れず、各自、わたしとわたしの息子に対し、今後も変わらぬ好意を示してもらいたい。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 10

神殿の清め 1 マカバイとその同志は、主の導きによって神殿と都とを奪還した。 2 異国の者たちが市場に築いた盛り土の祭壇はもとより、その囲みまで跡形もなく取り払い、 3 神殿を清め、新たな祭壇を築いた。そして火打ち石で火を取り、二年ぶりにいけにえを献げ、香をたき、燭台に火をともし、パンを供えた。 4 これらのことを行った後、彼らは主に向かってひれ伏して言った。「主よ、わたしたちが二度とこのような災禍に陥らないように、また万一罪を犯すことがあっても、主御自身が寛容をもって矯正し、神を冒涜する野蛮な異邦人の手に決して渡さないようにしてください。」 5 神殿の清めはキスレウの月の二十五日に行われたが、その日はかつて異国の者たちによって神殿が汚された日であった。 6 仮庵祭のしきたりに倣い、ユダたちは歓喜のうちに八日間を過ごしたが、つい先ごろまで、けだもの同然に山中や洞穴で、仮庵祭を過ごしていたことを思い起こした。 7 彼らは、テュルソス、実をつけた枝、更にはしゅろの葉をかざし、御座の清めにまで導いてくださったお方に賛美の歌をささげた。 8 またユダたちは、この日について公に提案し、人々の賛同を得て、ユダヤのすべての民はこの日を、年ごとの祭日として祝うことにした。 アンティオコス・エウパトルの治世下の事件(10 9―12 45) 治世の初め 9 これまで、エピファネスと呼ばれるアンティオコスの最期について語ってきたが、 10 次に、この不敬虔な男の息子、アンティオコス・エウパトルに関する出来事を明らかにし、戦争のもたらした災禍を要約して語ろう。 11 エウパトルは王国を継いだとき、リシアスという者を国務のために抜擢し、コイレ・シリアとフェニキアの総督に任じた。 12 彼の前任者で、あだ名をマクロンというプトレマイオスは、ユダヤ人が理不尽な仕打ちを受けたので、率先して彼らのために正義を守り、彼らにかかわる問題を友好的に処理しようとした。 13 これが原因で王の友人たちは、彼をエウパトルに訴えたのである。マクロンは、かつてフィロメトルからゆだねられていたキプロスを捨てて、アンティオコス・エピファネスのもとに逃れたために、自分がことあるごとに裏切り者呼ばわりされているのを知り、もはや高貴な身分にふさわしい権威を維持できなかったので、毒を仰いで自ら命を絶ってしまった。 ゴルギアスとの戦い 14 ゴルギアスは、イドマヤ地方の総督になると、傭兵を雇い、ことごとにユダヤ人に戦いを仕掛けた。 15 要所要所の砦を制圧していたイドマヤ人も、ゴルギアスと呼応してユダヤ人を苦しめ、エルサレムからの亡命者を引きずり込んで戦いを続けていた。 16 マカバイ勢は、神が自分たちと共に戦ってくださるよう祈り、懇願した後、イドマヤ人の砦目がけて突撃した。 17 彼らは勇猛果敢に攻撃し、その地方の砦を制圧し、城壁の上で戦っている敵をけ散らし、立ち向かう者は、切り殺し、二万人を下らない敵を殲滅した。 18 しかし、少なくとも九千人の敵が、包囲に対処してあらゆる備えをした非常に堅固な二つの塔に雪崩を打って逃げ込んだ。 19 マカバイはそこの包囲のために、シモンとヨセフ、それにザカイとその勇士たちを残しておいて、彼自身は攻撃を受けている所へ向かった。 20 ところが金に目のくらんだシモンの部下たちは、塔の中の者たちに買収され、七万ドラクメの銀貨を受け取ってかなりの人間を見逃してやった。 21 その事件が報告されると、マカバイは民の指導者たちを集め、「お前たちは我々の敵を自由にしたが、それは兄弟たちを金で売ったことになる」と非難した。 22 そして彼は、裏切り者に成り下がった者たちを殺し、時をおかず二つの塔を占領した。 23 彼は武器を取る度ごとに、首尾よく勝利を収め、この二つの砦で二万人以上を殺した。 ティモテオスに対するユダの勝利と、ゲゼルの占領 24 さきにユダヤ人に敗北を喫したティモテオスは、おびただしい外国勢と少なからぬ数のアジアの騎兵を集め、武力でユダヤを取ろうと攻め上ってきた。 […]