マカバイ記 二 書簡 5

空中を駆ける騎士の出現 1 そのころ、アンティオコスは再度のエジプト攻撃の準備をしていた。 2-3 折から、全市におよそ四十日にわたり、金糸の衣装をまとい、槍と抜き身の剣で完全武装した騎兵隊が空中を駆け巡るのが見えるという出来事が起きた。すなわち、隊を整えた騎兵がおのおの攻撃や突撃をし、盾が揺れ、槍は林立し、投げ槍が飛び、金の飾りやさまざまな胸当てがきらめいた。 4 そこで人は皆、この出現が吉兆であるようにと願った。 ヤソンの反撃と死 5 アンティオコスが他界したという偽りの噂が流れると、ヤソンは千人を下らぬ部下を率いて、突如、都に徹底的な攻撃を加えた。城壁上の兵士たちが撤退し、都が陥落寸前になると、メネラオスは城塞内に逃げ込んだ。 6 ヤソンは同胞市民の虐殺をほしいままにした。だが、自分の同族に対して勝利を得ても、その日は実は敗北の日なのだということに気づかなかった。彼は敵の敗北を記念する碑を打ち立てることができたと思っていたが、それは同胞の敗北記念碑であったのだ。 7 彼は結局権力を奪うことはできず、この陰謀の結果として屈辱的な逃亡を余儀なくされ、再度アンモンの地に至った。 8 彼の罪深い行状にも終わりが来た。アラビアの独裁王アレタによって投獄され、その後町から町へと逃げ回り、すべての人から追跡され、律法の離反者として憎まれた。彼は祖国とその市民の死刑執行人として忌み嫌われ、エジプトへと追いやられてしまった。 9 多くの人を祖国から追放したこの男は、先祖を同じくするよしみで保護を求め、ラケダイモン人の地に向かい、異郷で死んでしまった。 10 多くの人々を埋葬もせずに打ち捨てたこの男には、今や、その死を悼む者も葬式を挙げてくれる者もなく、父祖伝来の墓に納めてもらうことさえできなかった。 アンティオコス・エピファネスの弾圧 11 さて、事件の知らせが王のもとに届いたとき、王はユダヤに反乱が勃発したと判断し、たけりたってエジプトをたち、エルサレムを武力で奪い取った。 12 更に兵士たちには、出会う者は容赦なく切り殺し、家に逃れる者も殺してしまうよう命じた。 13 こうして、若者たちと老人たちの死体があふれ、女と子供が一掃され、娘たちと乳飲み子たちも虐殺されたのである。 14 まる三日間に、八万人もの犠牲者が出たが、そのうち四万人が剣によって殺され、それに劣らぬ数の人々が奴隷として売られてしまった。 神殿の略奪とエルサレムでの大量殺戮 15 さてそれでもまだ飽き足らず、アンティオコスは、この世でいちばん神聖な神殿に無謀にも足を踏み入れた。その手先となったのが、律法と祖国を裏切ったあのメネラオスである。 16 王は血に汚れた手に聖なる祭具を取った。諸国の王が、神殿に栄光と栄誉を添えるために奉納した聖なる祭具を、その汚れた手で略奪した。 17 アンティオコスはすっかり尊大になっていたために、この町の住民の罪のために主が一時的に怒られ、だからこそ彼が聖なる場所を荒らすことができたのだということを見落としていた。 18 もし民がこれほど多くの罪にのめり込んでいなかったなら、この男といえども、かつてセレウコス王に派遣されて宝庫の調査をしようとしたヘリオドロスの場合と同じように、神殿に足を踏み入れた瞬間に、鞭打たれ、その暴挙は許されるものではなかった。 19 主はこの民族のために聖なる場所を選ばれたのであって、聖なる場所のために民を選ばれたのではない。 20 だから聖なる場所そのものも民の災いを共に分かち合い、後になって繁栄を共にした。全能者の怒りのために捨てられた聖なる場所は、偉大な主との和解が実現したとき、満ちあふれる栄光のうちに再興されたのである。 21 さて、神殿から千八百タラントンを持ち出したアンティオコスは、アンティオキアに向けて急ぎ帰った。心のおごっていた彼は、陸でも船で、海でも徒歩で行けると思い上がっていた。 22 しかし彼は、ユダヤ民族を虐待するために各地に総督を残した。エルサレムには任命者よりも野蛮な気質のフリギア出身のフィリポスを、 23 ゲリジム山にはアンドロニコスを残した。この二人に加え、メネラオスも残したが、彼はユダヤ市民に対して敵意を燃やしていたので、三人の中では同胞市民に対して最も高飛車にふるまった。 24 王はまた、アンティオキアからムシア人アポロニオスを、二万二千の兵と共にエルサレムに派遣し、成人した男子をことごとく切り殺し、女と子供は売り飛ばすように、と命じた。 25 この男はエルサレムに着くと、さも友好的であるかのようにふるまい、安息日という聖なる日が来るのを待った。ユダヤ人たちが仕事を離れるやいなや、配下の者たちに武装行進を命じた。 26 何事かと思って出てきた人々全員を刺し殺したうえで、武装兵と共に市内になだれ込み、大量の殺戮を行った。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 6

異教礼拝の強要 1 その後程なく、王はアテネ生まれの長老を派遣した。王は、ユダヤ人を無理やりに父祖伝来の律法から引き離し、神の律法に沿った生き方を禁じ、 2 エルサレムの神殿を汚し、その神殿をゼウス・オリンポスの宮と呼ばせ、地域住民が集まってくるゲリジム山の神殿をゼウス・クセニオスの宮と呼ばせた。 3 のしかかってきた悪は、すべての人にとってまことに耐え難く、不愉快極まりないものだった。 4 実際、神殿には娼婦と戯れる異邦人たちの乱痴気騒ぎが充満し、境内では女たちとの交わりが行われるようになった。その上、禁じられている物まで持ち込まれ、 5 祭壇には、律法によって禁止されたものが山のように供えられた。 6 今や安息日を守ることも、父祖伝来の祝祭を執り行うこともできず、自分がユダヤ人だということさえ、公然とは口にできなくなった。 7 毎月、王の誕生日には、いけにえの内臓を食べることを、有無を言わせず強制され、ディオニソスの祭りがくると、つたの冠をかぶり、ディオニソスのための行列に参加することを強制された。 8 プトレマイオスの進言で、近隣のギリシアの支配下にある町々に勅令が出た。それによって、それらの町々も、ユダヤ人に対しては同様の政策をとり、彼らにいけにえの内臓を食べさせることとし、 9 ギリシア的慣習に進んで従わない者は、殺すことになった。試練の嵐は目前に迫った。 10 息子に割礼を施したという理由で、二人の女が引き出された。その胸には乳飲み子をかけられ、彼女たちは公衆の面前で町中引き回されたあげく、城壁から突き落とされた。 11 また、近くの洞穴に逃げ込み、ひそかに集って安息日を守っていた人々があったが、フィリポスに密告された。その人々は、尊ぶべき日を守りたいと切望して信仰深く身を持し、あえて防御しなかったので、皆、焼き殺されてしまった。 神は御自分の民を見捨てられない 12 さて、わたしはこの書を読む者がこのような災難に気落ちせず、これらの罰は我々民族を全滅させるためのものではなく、むしろ教訓のためであると考えるよう勧めたい。 13 我々の場合、主を汚す者を主はいつまでも放置せず、直ちに罰を下される。これは大いなる恵みの印である。 14-15 他の国民の場合、主は、彼らの罪の芽が伸びるだけ伸びるのを、じっと待っておられるが、我々に対して直ちに罰を下されるのは、芽が伸びきらないうちに摘んでしまうためである。 16 主はわたしたちへの憐れみを決して忘れられない。主は、災いをもって教えることはあっても、御自分の民を見捨てられることはないのだ。 17 以上のことを心に留めて、直ちに物語の本筋に戻ろう。 エレアザルの殉教 18 さて律法学者として第一人者で、既に高齢に達しており、立派な容貌の持ち主であったエレアザルも、口をこじあけられ、豚肉を食べるように強制された。 19-20 しかし彼は、不浄な物を口にして生き永らえるよりは、むしろ良き評判を重んじて死を受け入れることをよしとし、それを吐き出し、進んで責め道具に身を任そうとした。これこそ、生命への愛着があるとはいえ、口にしてはならないものは断固として退けねばならない人々の取るべき態度である。 21 ところがそのとき、禁じられたいけにえの内臓を食べさせる係の者たちは、エレアザルと旧知の間柄であったので、ひそかに彼に席を外させて、王が命じたいけにえの肉を口にした振りをして、彼自身が用意し、持参している清い肉を食べることを勧めた。 22 そうすれば、彼は死を免れ、その上、彼らとの昔からの友情のゆえに優遇されることになるからであった。 23 これに対して、彼は筋の通った考えを持っていて、その年齢と老年のゆえの品位、更に新たに加わった立派な白髪、だれにもまさった幼いときからの生き方にふさわしく、とりわけ神が定められた聖なる律法に従って、毅然とした態度でちゅうちょすることなく、「わたしを陰府へ送り込んでくれ」と言った。 24 「我々の年になって、うそをつくのはふさわしいことではない。そんなことをすれば、大勢の若者が、エレアザルは九十歳にもなって異教の風習に転向したのか、と思うだろう。 25 その上彼らは、ほんのわずかの命を惜しんだわたしの欺きの行為によって、迷ってしまうだろう。またわたし自身、わが老年に泥を塗り、汚すことになる。 26 たとえ今ここで、人間の責め苦を免れえたとしても、全能者の御手からは、生きていても、死んでも逃れることはできないのだ。 27 だから今、男らしく生を断念し、年齢にふさわしい者であることを示し、 28 若者たちに高貴な模範を残し、彼らも尊く聖なる律法のためには進んで高貴な死に方ができるようにしよう。」こう言い終わると、直ちに責め道具の方へ歩いて行った。 […]

マカバイ記 二 書簡 7

七人兄弟の殉教 1 また次のようなこともあった。七人の兄弟が母親と共に捕らえられ、鞭や皮ひもで暴行を受け、律法で禁じられている豚肉を口にするよう、王に強制された。 2 彼らの一人が皆に代わって言った。「いったいあなたは、我々から何を聞き出し、何を知ろうというのか。我々は父祖伝来の律法に背くくらいなら、いつでも死ぬ用意はできているのだ。」 3 王は激怒した。そして大鍋や大釜を火にかけるように命じた。 4 直ちに火がつけられた。王は命じて、他の兄弟や母の面前で、代表して口を開いた者の舌を切り、スキタイ人がするように頭の皮をはぎ、その上、体のあちらこちらをそぎ落とした。 5 こうして見るも無残になった彼を、息のあるうちにかまどの所へ連れて行き、焼き殺すように命じた。鍋から湯気が辺り一面に広がると、兄弟たちは母ともども、毅然として、くじけることなく死ねるよう互いに励まし合い、そして言った。 6 「主なる神がわたしたちを見守り、真実をもって憐れんでくださる。モーセが不信仰を告発する言葉の中で、『主はその僕を力づけられる』と明らかに宣言しているように。」 7 こうして最初の者の命を奪うと、次に二番目の者を引き出し、これを辱めた。頭の皮を、髪の毛もろともはぎ取ってから、「肉を食え。それとも体をばらばらにされたいのか」と言った。 8 しかしそれに対して彼は、父祖たちの言葉で、「食うものか」と答えた。そこで彼は最初の者と同じように拷問にかけられた。 9 息を引き取る間際に、彼は言った。「邪悪な者よ、あなたはこの世から我々の命を消し去ろうとしているが、世界の王は、律法のために死ぬ我々を、永遠の新しい命へとよみがえらせてくださるのだ。」 10 彼に続いて三番目の者もなぶりものにされた。彼は命ぜられると即座に舌を差し出し、勇敢に両手を差し伸べ、 11 毅然として言った。「わたしは天からこの舌や手を授かったが、主の律法のためなら、惜しいとは思わない。わたしは、主からそれらを再びいただけるのだと確信している。」 12 そこで、王自身も、供の者たちも、苦痛をいささかも意に介さないこの若者の精神に驚嘆した。 13 やがて彼も息を引き取ると、彼らは四番目の者も同様に苦しめ、拷問にかけた。 14 死ぬ間際に彼は言った。「たとえ人の手で、死に渡されようとも、神が再び立ち上がらせてくださるという希望をこそ選ぶべきである。だがあなたは、よみがえって再び命を得ることはない。」 15 続いて五番目の者を引き出して拷問にかけた。 16 彼は王を見つめて言った。「あなたは朽ちるものであるのに、人々に君臨し、何でも好き勝手なことをしている。しかし、わが民族が神から見捨てられたなどとゆめゆめ思うな。 17 やがてあなたは、神の力の偉大さを思い知るだろう。神はあなたとあなたの子孫を苦しみに遭わせるからだ。」 18 それから六番目の者が引き出された。彼は死を目前にしてこう言った。「思い違いも甚だしい。我々は我々の神に対して罪を犯したため、このような目に遭っているのだ。いかなる罰であろうとも致し方ない。 19 しかし、あなたは神を敵にしたのだ。ただでは済まないぞ。」 20 それにしても、称賛されるべきはこの母親であり、記憶されるべき模範であった。わずか一日のうちに七人の息子が惨殺されるのを直視しながら、主に対する希望のゆえに、喜んでこれに耐えたのである。 21 崇高な思いに満たされて、彼女は、息子たち一人一人に父祖たちの言葉で慰めを与え、女の心情を男の勇気で奮い立たせながら、彼らに言った。 22 「わたしは、お前たちがどのようにしてわたしの胎に宿ったのか知らない。お前たちに霊と命を恵んだのでもなく、わたしがお前たち一人一人の肢体を組み合わせたのでもない。 23 人の出生をつかさどり、あらゆるものに生命を与える世界の造り主は、憐れみをもって、霊と命を再びお前たちに与えてくださる。それは今ここで、お前たちが主の律法のためには、命をも惜しまないからだ。」 24 アンティオコスは侮辱されたと感じ、その声に非難の響きを聞き取った。彼は、いちばん末の息子がまだ生きていたので、言葉で勧告するだけでなく、誓いをもって、「もし先祖の慣習を捨てるなら、富と最高の幸福を保障し、王の友人として遇し、仕事も与えよう」と約束した。 25 だが、若者が全く耳を貸そうとしないので、王は母親を呼び寄せて、少年を救うために一役買うようにと勧めた。 26 王があまりに強く勧めるので、母親は息子を説得することを承知した。 27 しかし母親は、若者の上に身をかがめ、残酷な暴君をあざけってから、父祖たちの言葉で言った。「わが子よ、わたしを憐れんでおくれ。わたしはお前を九か月も胎に宿し、三年間乳を含ませ、養い、この年になるまで導き育ててきました。 […]

マカバイ記 二 書簡 8

ユダ・マカバイの反乱 1 マカバイとも呼ばれるユダとその同志は、ひそかに村々に忍び込むと、親族を呼び集め、ユダヤ人としての生き方を貫いてきた者たちを仲間に加え、およそ六千人を集めた。 2 彼らは主に向かって嘆願し続けた。「主よ、すべての人々に踏みにじられている民に目を留め、不敬虔な者どもによって汚された神殿を憐れみ、 3 破壊されて廃虚同然の都を慈しみ、あなたに訴える血の叫びに耳を傾けてください。 4 そしてまた、罪なき幼児が無法にも殺戮されたことを忘れず、あなたの御名を冒涜した者どもを憎んでください。」 5 マカバイが軍を指揮し始めると、異邦人たちは抵抗できなくなった。主の怒りが、憐れみに変わったのだ。 6 彼は、町や村を不意に襲って、火を放ち、要所を奪還し、少なからざる敵を敗走させた。 7 彼は同志と共にこの種の襲撃を、夜間を選んで実行した。彼の武勇は、至るところに広まった。 ニカノルとの戦い 8 フィリポスはユダが徐々に兵を進め、勝利を重ねてゆくのを見て、コイレ・シリアとフェニキアの総督プトレマイオスに、王が直面している難局に力を貸してくれるよう書簡を送った。 9 そこでプトレマイオスは、直ちに王の第一の友人の一人パトロクロスの子ニカノルを任命し、二万人を下らぬ諸民族から成る混成部隊を与え、ユダヤ全民族を根絶やしにするために派遣した。その際プトレマイオスは、戦争の経験豊かな将軍ゴルギアスを付けてやった。 10 ニカノルはユダヤ人を捕虜にし、それを売って、王がローマ人に納めるべき二千タラントンを捻出しようと考えた。 11 彼は、すぐさま沿岸の町々に、ユダヤ人の売買について使者を送り、一タラントンで奴隷九十人を譲り渡すという約束で呼びかけた。彼は、全能者の裁きが、まさに下されようとしていることなど、夢にも考えていなかったのである。 12 さて、ニカノル進撃の急報が入ったので、ユダは敵軍の襲来を同志に告げた。 13 すると、臆病なうえに神の裁きを全く信じない者たちは、四方八方に逃げ出し、戦列を離れ去った。 14 だが、とどまった者たちは、手もとに残っているものをすっかり処分し、声を合わせて主に祈り求めた。「神を畏れぬニカノルによって、まだ戦いも始まらないうちに奴隷に売られたわたしたちを救ってください。」 15 彼らは自分たちのゆえに祈ったのではなく、先祖たちとの契約のゆえ、また、威厳と壮大さに満ちた主の御名によって自分たちが呼ばれているという自覚からそう祈ったのであった。 16 そこでマカバイは、自分のもとにとどまった六千人を集めて激励した。「敵を前にして浮き足立つな。不当にも我々に立ち向かう異邦人の大軍に臆することなく、雄々しく戦うのだ。 17 敵どもが律法を足げにして聖なる場所に対して働いた侮辱や、凌辱された都の惨状、また、父祖伝来の生活様式が崩壊させられたことを、一時も忘れないように。」 18 彼は言った。「敵どもは武器と大胆さに、我々は全能の神の力に依り頼む。神は我々に襲いかかってくる者どもはもちろん、全世界さえも、一度首を振るだけで打ち倒すことがおできになるのだ。」 19 更にユダは、先祖が体験した数々の助けを数え上げた。すなわち、センナケリブの襲来に際し、十八万五千の敵勢をどのようにして滅ぼしたか、 20 また、バビロニアでのガラテヤ人との戦いに際し、総勢八千のユダヤ人が四千人のマケドニア人を率いて救援に駆けつけたが、マケドニア人が進退窮まったとき、ユダヤ人たちがどのように天からの助けを得て、六千人で十二万人を滅ぼし、多くの戦利品を得たかを語って聞かせた。 21 こうしてユダは同志を奮い立たせ、律法と祖国のために死ぬ覚悟を固めさせた後、軍を四隊に分け、 22 自分の兄弟シモン、ヨセフ、ヨナタンをそれぞれ各部隊の指揮官に任じて、各自に兵千五百人を配した。 23 更にエレアザルに聖なる巻物を朗読させ、「神の助け」を合言葉として彼らに与えた。そしてユダは、自ら第一部隊の先頭に立ってニカノルと対戦した。 24 全能者が共に戦ってくださったので、九千を上回る敵を殺戮し、更にニカノル軍の大部分の兵士たちに傷を負わせて手足を不自由にし、総退却を余儀なくさせた。 25 また、自分たちを奴隷として買い取ろうとして待機していた者たちの金を奪い取り、存分に敵を追いまくった後、日没が迫ったので、打ち切った。 26 その日は安息日の前日だったため、追撃を続けられなかったのである。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 9

アンティオコス・エピファネスの末路 1 ちょうどそのとき、アンティオコスはペルシアの町々から、無残な退却を余儀なくされていた。 2 彼は、ペルセポリスという町に入り、神殿を略奪し、町を制圧しようとしたが、多くの者たちが騒ぎだし、彼に対して武装決起した。こうして彼は、その地の住民に追いまくられ、恥辱の敗退をすることになったのである。 3 彼がエクバタナに着くと、ニカノルとティモテオスの軍についての情報が届いた。 4 彼は怒りにかられ、自分の敗退の恨みをユダヤ人で晴らそうと思い、天の裁きが自分の上に臨んでいるというのに、戦車を駆る者に、休むことなく全行程をひたすら走り抜けと命じ、「エルサレムに着いたら、そこをユダヤ人どもの共同墓地にしてやる」と豪語した。 5 しかし、この言葉を言い終えるやいなや、彼の五臓六腑に激痛が走った。すべてを見通されるイスラエルの神、主が、目に見えぬ致命的な一撃を彼に加えられたのである。 6 常軌を逸した度重なる拷問で他人の内臓を痛めつけた男には、当然の罰であった。 7 しかし、彼は不遜な態度を改めるどころか、ますます増長し、ユダヤ人に対して憤怒の炎を燃やし、命じて先を急がせた。だが、彼はごう音を響かせて疾走する戦車から振り落とされ、落ち方が悪かったため、あらゆる関節が外れ、傷だらけとなった。 8 彼は今の今まで、人間の分をわきまえずにのぼせ上がり、海の波に命令を下し、高い山を天秤に載せようとすら考えていたのに、地面に投げ出され、担架で運ばれる始末であった。こうして神の力は万人の前に明らかにされた。 9 この神を畏れぬ者の両目からは蛆がわきだし、激痛にさいなまれつつ、その肉は生きながらに崩れ、全陣営がその腐臭に悩まされた。 10 先刻まで、天の星をもつかみ取ると豪語していた男なのに、立ちこめる耐え難い悪臭のために、だれも彼を運ぶことができなくなった。 11 こうして、さすがの彼の高慢も完膚なきまでに砕かれ、神の鞭の一打ちごとに痛みも増し加わり、神の力を思い知ることとなった。 12 ついに、彼自身もその悪臭に耐えられなくなって、こう告白した。「神に服従することは正しく、死すべき者が、思い上がってはならないのだ。」 13 この汚れた男は、憐れみを望むべくもないのに、主に向かって、こう約束した。 14 「わたしは、聖なる都を破壊し、共同墓地にしてしまおうと急ぎ赴いていましたが、その都に自由を宣言します。 15 また、わたしはユダヤ人など埋葬に値せず、鳥のえさぐらいに考えて、幼子もろとも猛獣に投げ与え、後は鳥のついばむにまかせようと思っていましたが、そのユダヤ人全員を、アテネ市民と同等なものといたします。 16 さきに略奪した聖なる神殿を最上の奉納物で飾り、すべての聖なる祭具は何十倍にもして返し、いけにえのための経費は、自分の収入で賄います。 17 更にわたし自身もユダヤ人となり、神の力を宣べ伝えるために、人の住む所は、どこへでも参ります。」 アンティオコスのユダヤ人への手紙 18 しかし激痛が全く去らなかったので――神の正しい裁きが下ったからである――彼は、絶望のあまり、ユダヤ人に向けて次のような哀訴の手紙を書いた。その内容は、以下のとおりである。 19 「王であり総司令官であるアンティオコスより、善良なユダヤ人市民に深甚なる挨拶を送り、健康と繁栄を祈る。 20 もし、あなたがたが健康であり、子供と財産もあなたがたの望みどおりになっているのなら、天に希望を抱いているわたしも、大いに神に感謝するものである。 21 病に倒れてみると、あなたがたから受けた尊敬と好意が懐かしく思い出されてくる。ペルシア地方から引き返す途中、わたしは、やっかいな病気にかかり、万人の安全を配慮する必要を痛感している。 22 わたしは、この身に起きたことについて、絶望しているわけではなく、回復の希望を大いに抱いている。 23 かつてわたしの父は、北方に遠征したときに、後継者を任命したが、それは、 24 万一何か予期に反することが起こったり、面倒な知らせが届いたりしたときに、その地方の人々が、だれに後事が託されているかを承知していれば、騒ぐこともないという理由からであった。今わたしはそれを思い出し、 25 更に、王国の近隣の領主たちが折をうかがい、事の成り行きに注目しているのを知って、ここにわたしも、息子のアンティオコスを王に指名する。わたしが北方諸州に急行した際、あなたがたの多くの者に再三託し、かつ推薦したあの息子である。ここに記したことを、わたしは彼にも書き送ってある。 26 だから、どうか公私にわたってわたしから受けた恩義を忘れず、各自、わたしとわたしの息子に対し、今後も変わらぬ好意を示してもらいたい。 27 […]

マカバイ記 二 書簡 10

神殿の清め 1 マカバイとその同志は、主の導きによって神殿と都とを奪還した。 2 異国の者たちが市場に築いた盛り土の祭壇はもとより、その囲みまで跡形もなく取り払い、 3 神殿を清め、新たな祭壇を築いた。そして火打ち石で火を取り、二年ぶりにいけにえを献げ、香をたき、燭台に火をともし、パンを供えた。 4 これらのことを行った後、彼らは主に向かってひれ伏して言った。「主よ、わたしたちが二度とこのような災禍に陥らないように、また万一罪を犯すことがあっても、主御自身が寛容をもって矯正し、神を冒涜する野蛮な異邦人の手に決して渡さないようにしてください。」 5 神殿の清めはキスレウの月の二十五日に行われたが、その日はかつて異国の者たちによって神殿が汚された日であった。 6 仮庵祭のしきたりに倣い、ユダたちは歓喜のうちに八日間を過ごしたが、つい先ごろまで、けだもの同然に山中や洞穴で、仮庵祭を過ごしていたことを思い起こした。 7 彼らは、テュルソス、実をつけた枝、更にはしゅろの葉をかざし、御座の清めにまで導いてくださったお方に賛美の歌をささげた。 8 またユダたちは、この日について公に提案し、人々の賛同を得て、ユダヤのすべての民はこの日を、年ごとの祭日として祝うことにした。 アンティオコス・エウパトルの治世下の事件(10 9―12 45) 治世の初め 9 これまで、エピファネスと呼ばれるアンティオコスの最期について語ってきたが、 10 次に、この不敬虔な男の息子、アンティオコス・エウパトルに関する出来事を明らかにし、戦争のもたらした災禍を要約して語ろう。 11 エウパトルは王国を継いだとき、リシアスという者を国務のために抜擢し、コイレ・シリアとフェニキアの総督に任じた。 12 彼の前任者で、あだ名をマクロンというプトレマイオスは、ユダヤ人が理不尽な仕打ちを受けたので、率先して彼らのために正義を守り、彼らにかかわる問題を友好的に処理しようとした。 13 これが原因で王の友人たちは、彼をエウパトルに訴えたのである。マクロンは、かつてフィロメトルからゆだねられていたキプロスを捨てて、アンティオコス・エピファネスのもとに逃れたために、自分がことあるごとに裏切り者呼ばわりされているのを知り、もはや高貴な身分にふさわしい権威を維持できなかったので、毒を仰いで自ら命を絶ってしまった。 ゴルギアスとの戦い 14 ゴルギアスは、イドマヤ地方の総督になると、傭兵を雇い、ことごとにユダヤ人に戦いを仕掛けた。 15 要所要所の砦を制圧していたイドマヤ人も、ゴルギアスと呼応してユダヤ人を苦しめ、エルサレムからの亡命者を引きずり込んで戦いを続けていた。 16 マカバイ勢は、神が自分たちと共に戦ってくださるよう祈り、懇願した後、イドマヤ人の砦目がけて突撃した。 17 彼らは勇猛果敢に攻撃し、その地方の砦を制圧し、城壁の上で戦っている敵をけ散らし、立ち向かう者は、切り殺し、二万人を下らない敵を殲滅した。 18 しかし、少なくとも九千人の敵が、包囲に対処してあらゆる備えをした非常に堅固な二つの塔に雪崩を打って逃げ込んだ。 19 マカバイはそこの包囲のために、シモンとヨセフ、それにザカイとその勇士たちを残しておいて、彼自身は攻撃を受けている所へ向かった。 20 ところが金に目のくらんだシモンの部下たちは、塔の中の者たちに買収され、七万ドラクメの銀貨を受け取ってかなりの人間を見逃してやった。 21 その事件が報告されると、マカバイは民の指導者たちを集め、「お前たちは我々の敵を自由にしたが、それは兄弟たちを金で売ったことになる」と非難した。 22 そして彼は、裏切り者に成り下がった者たちを殺し、時をおかず二つの塔を占領した。 23 彼は武器を取る度ごとに、首尾よく勝利を収め、この二つの砦で二万人以上を殺した。 ティモテオスに対するユダの勝利と、ゲゼルの占領 24 さきにユダヤ人に敗北を喫したティモテオスは、おびただしい外国勢と少なからぬ数のアジアの騎兵を集め、武力でユダヤを取ろうと攻め上ってきた。 […]

マカバイ記 二 書簡 11

ベトツルでのリシアスとの戦い 1 その直後のことである。王の後見人で、親族である長官リシアスは、事の成り行きを非常に憂慮し、 2 歩兵およそ八万と全騎兵を召集し、ユダヤ人に立ち向かった。それは、都エルサレムをギリシア人の居住地にし、 3 他の異邦人の神殿同様に、そこの神殿にも税を課し、また大祭司の地位も毎年、金しだいで決めようともくろんだためである。 4 彼は、神の力を考えず、その何万という歩兵、何千という騎兵、象八十頭をもって誇っていた。 5 ユダヤに侵入すると、エルサレムからおよそ五スコイノス離れた堅固な要所ベトツルに迫り、これを窮地に陥れた。 6 マカバイの軍は、リシアスが砦を包囲したという知らせを受けて、悲嘆に暮れて号泣し、群衆と共に主に向かい、イスラエルの救いのために、善き天使の派遣を嘆願した。 7 マカバイは真っ先に武器を取ると、生死を共にしてきた同志たちに向かって、兄弟たちを助けに行こうと激励した。彼らは奮い立って、一斉に出撃した。 8 彼らがまだエルサレムの近くにいたとき、白衣をまとい、金の武具をきらめかせた一人の騎士が現れて彼らの先頭に立った。 9 そこで一同は、憐れみに富む神を賛美し、士気を大いに鼓舞され、人間ばかりか、最もたけだけしい野獣や鉄の城壁でさえも打ち破るほどの意気込みとなった。 10 主が彼らを憐れまれたので、彼らは天からの味方を得、装備を整えて突撃した。 11 獅子のように敵に飛びかかった彼らは、歩兵一万一千と騎兵千六百をなぎ倒し、残る全員の敗走を余儀なくさせた。 12 その大半は負傷し、命からがら、丸腰で逃れた。リシアス自身も、恥も外聞もなく逃げ出して命拾いをした。 リシアス、ユダヤ人と和睦する 13 リシアスはそれほど愚かではなかったので、自分の喫した敗北について自問自答し、力ある神が共に戦っている以上、ヘブライ人は無敵であると悟った。そこで、彼らに使者を送って、 14 自分が王を説得し、王が必ず彼らの友人になるようにするから、納得のいく条件で、和解してはどうかと提案した。 15 マカバイはそれを得策と判断し、リシアスの申し入れに全面的に同意した。こうしてマカバイが書面でリシアスに申し入れたユダヤ人の扱いに関するすべてを王は認可した。 16 これについてのユダヤ人あてのリシアスの返書は以下のとおりである。「リシアスから、ユダヤの民に挨拶を送る。 17 あなたがたの使者ヨハネとアブサロムは、以下に記す親書を差し出し、そこに明記されている要望について請願をした。 18 そこでわたしは、報告すべきことの一切を王に申し上げたところ、できるだけ要望に沿う、との仰せであった。 19 そこでもしあなたがたが、我々の政策に協力的であるならば、わたしは今後も、好意的に対処する考えである。 20 個々の適用については、あなたがたの使者とわたしの使者に、あなたがたのことを協議するように命じておいた。 21 御健康を祈る。第百四十八年、ディオス・コリンティオスの月、二十四日。」 22 王の手紙の内容は以下のとおりであった。「アンティオコス王から兄弟リシアスに挨拶を送る。 23 予の父が神々の一人に加えられた今、予の望むところは、領内の者たちが騒ぐことなく、それぞれの仕事に励むことである。 24 予の聞くところでは、ユダヤ人たちが、父の打ち出したギリシア化政策に同意せず、むしろ、彼ら自身の生活慣習を選び、律法を守って生活できるようにと、願い出ているとのことである。 25 むろん、予は、この民が不穏の動きに出ることは望まないゆえに、彼らにその神殿を返還し、彼らが父祖伝来のならわしに従って暮らせるようにとの決定を下す。 26 彼らのもとに使者を送り、彼らに和解の印として右手を差し伸べるがよい。そうすれば、彼らは予の意図を知って喜び、進んで彼ら本来の生活に戻るであろう。」 27 […]

マカバイ記 二 書簡 12

ヤッファとヤムニアでの事件 1 これらの協定が結ばれた後、リシアスは王のもとに戻り、ユダヤ人たちは畑仕事に戻った。 2 しかし、各地の総督の中でティモテオス、ゲンナイオスの子アポロニオス、ヒエロニモス、デモフォン、そして更にキプロスの長官ニカノルも、ユダヤ人に平穏無事な暮らしを許さなかった。 3 他方、ヤッファの住民も神を畏れぬ暴挙に出た。彼らは腹の内はおくびにも出さず、町のユダヤ人たちに妻子を連れて手配した小舟に乗るよう誘いをかけた。 4 町全体の決定ということもあり、また、心から隣人と仲よくしたいと思っていたため、ユダヤ人たちは何の疑いも抱かず乗り込んだ。しかし、沖合に連れ出されると、彼らは沈められてしまった。溺死した者は二百人を下らなかった。 5 ユダは同胞にもたらされたこの惨禍を知ると、部下たちに命令を下し、 6 正義の裁き主なる神に祈り、兄弟たちを殺戮した者を襲撃した。彼らは夜陰に乗じて港湾施設に火を放ち、船を炎上させ、船から港に逃げ込んだ者たちを突き殺した。 7 しかし、町が城門を閉ざしたため、ヤッファ居住区の絶滅は次の機会に期して、引き返した。 8 彼はまた、ヤムニアでもユダヤ人居住者に対する同様の陰謀があることを耳にした。 9 そこでまた、夜中にヤムニアの住民を襲い、船もろとも港を焼いた。夜を焦がす炎は、二百四十スタディオンも離れたエルサレムからも望まれた。 アラビア人との戦いとカスピン襲撃 10 ユダの軍がそこから九スタディオン進み、更にティモテオス軍攻撃の途上にあったとき、アラビア人が一行を襲撃して来た。五千を下らない歩兵と五百の騎兵であった。 11 激しい戦いになった。しかし、神の助けで戦いはユダの軍勢に有利に展開し、利あらずと見たこの遊牧民は、ユダに和解の印の右手を差し伸べるように願い、家畜を譲り渡すこと、できるかぎり援助することを約束した。 12 ユダは、彼らが実際、多くの点で役立つことを考慮し、彼らと和を結ぶことを承諾した。こうして彼らは、右手を交わすと天幕へと帰って行った。 13 それからユダは、土塁や城壁で固められ、あらゆる人種が住んでいる町を襲撃した。その町の名はカスピンであった。 14 城内にいる者たちは、堅固な城壁と蓄えられた食糧にすっかり安心し、ユダの軍に対して野卑な態度でののしり、果ては神を汚す言葉や禁句を吐いた。 15 そこでユダの軍は、かのヨシュアの時代に、破城槌や攻城機もなしにエリコを陥落させた神、あの偉大な世界の支配者を呼び求め、城壁目がけて猛然と突進した。 16 彼らは神の御心によって町を占領した後、言語に絶する殺戮を行った。このため、幅二スタディオンもある付近の湖水は、血であふれているように見えた。 ユダ、ティモテオスを追撃しカルナイムに至る 17 ユダの軍はそこから七百五十スタディオン進み、カラクスにまで至り、トビヤと呼ばれているユダヤ人たちのもとに行った。 18 だが、その場所ではティモテオスを捕らえることができなかった。ティモテオスは目立った動きもせずに、既にその地方を放棄していた。ただし、非常に強力な守備隊だけは拠点に残しておいた。 19 マカバイ軍の指揮官ドシテオスとソシパトロスは出て行って、ティモテオスが砦に残した一万人以上の人間を滅ぼした。 20 マカバイは軍を整え、部隊ごとに再編成し、彼ら二人を全部隊の総指揮官とした後、歩兵十二万と騎兵二千五百を率いるティモテオスの後をひたすら追って行った。 21 ユダの接近を知ったティモテオスは、女と子供と身の回りの物を、ひとまず先にカルナイムという所へ送り込んだ。この地方は狭い道が多く、攻めにくく、接近も容易ではなかったからである。 22 ところで、ユダの第一部隊が現れたとき、すべてを見通す方の出現があり、敵は恐れおののき、右往左往しつつ逃走した。そのため、同士討ちとなり、互いに剣先で突き合う光景があちこちで見られた。 23 ユダはいっそう激しく追撃を続け、この罪深い者どもを突き刺し、三万人を殲滅した。 24 ティモテオス自身は、ドシテオスとソシパトロスの部下の手に捕らえられたが、自分は多くのユダヤ人の両親や兄弟を人質にしており、人質の安全は保障できないと言って巧みに欺き、自分を放免するように要求した。 25 ティモテオスが人質を無傷で解放すると何度も誓ったので、ユダヤ人たちは彼を信用し、同胞の救出のため、彼を釈放した。 26 次いでユダはカルナイムに着き、アテルガティスの神殿で二万五千人を打ち殺した。 […]

マカバイ記 二 書簡 13

アンティオコスとリシアスのユダヤ侵入 メネラオスの処刑 1 第百四十九年のことである。アンティオコス・エウパトルが大軍を率いてユダヤに侵入してきたという知らせが、ユダの陣営に届いた。 2 王と共に、その後見人で国務をあずかっていたリシアスも参加していたが、彼らはおのおの、歩兵十一万、騎兵五千三百、象二十二頭、鎌付き戦車三百より成るギリシア軍を率いていた。 3 メネラオスもまた一行に加わり、さまざまな策略を用いてアンティオコスを唆したが、それは祖国を救うためではなく、自ら権力の座につくことをもくろんでのことであった。 4 しかし王の王なる神が、この罪深い男に向けてアンティオコスの怒りを引き起こされた。リシアスがこの男こそすべての災いの原因であると指摘したとき、アンティオコスは、メネラオスをベレアに送って、その土地のやり方に従ってメネラオスを殺すように命じた。 5 その地には、灰の詰まった高さ五十ペキスの塔があり、その内側全面がらせん状になっており、そこには灰の中に突き落とす仕掛けが付いていた。 6 神殿荒らしとして告発された者や、その他の数々の悪行を重ねた者は皆、そこに突き落とされて殺される仕組みになっていた。 7 こうして律法に背いたメネラオスは死ぬべくして死に、先祖の地に葬られることもなかったが、 8 これは当然の定めであった。祭壇で聖なる火と聖なる灰をさんざん冒涜した結果、今度は彼自身が灰の中で死ぬはめとなったのである。 モデインでの勝利 9 さて、野蛮な思いに燃えた王は、父の時代に行われた以上の極悪な仕打ちをもって、ユダヤ人に臨んだ。 10 この知らせを受けたユダは、夜も昼も主に叫んでこう祈るよう人々に命じた。「これまでと同じように、今このときも、我々を助けてください。 11 律法と、祖国と、聖なる神殿がまさに奪われようとしているのです。ようやくしばしの安堵の時を得たこの民を、冒涜的な異民族の手に渡さないでください。」 12 そこで一同は共に同じ祈りを三日間通してささげ、助けを求めて叫び、断食し、地にひれ伏して、憐れみ深い主に嘆願した。ユダは彼らを励まし、自分のもとに来させた。 13 そして長老たちと特別に相談し、王の軍隊がユダヤに侵入して都を掌握する前にこちらから出撃し、神の助けを得て、事の決着をつけることにした。 14 彼は世界の造り主に信頼を置き、律法と神殿、都と祖国、律法に従った生活様式を守るために、死を覚悟して自分と一緒に雄々しく戦うよう部下を励まし、モデインの近くに陣を敷いた。 15 また、「神の勝利を」という合言葉を部下に与え、よりすぐった若者たちを率いて、王の陣営に夜襲をかけ、二千人を殺した。その中には先頭に立つ象も御者も含まれていた。 16 こうして、ついに敵陣を恐怖と混乱に陥れると、彼らは思いを遂げて引き揚げた。 17 時は暁であり、主の御加護がユダにあったための勝利であった。 アンティオコス、ユダヤ人と和解する 18 こうして、ユダヤ人の大胆不敵さを思い知らされた王は、慎重な作戦を立て、各地を攻撃することにした。 19 まず、ベトツルにあるユダヤ人の堅固な城塞を攻撃したが、一進一退の後、敗北を喫してしまった。 20 一方ユダは、要塞の中の者たちに必要物資を送り込んだが、 21 ユダヤ部隊の一員、ロドコスが、敵にこの情報を漏らしたので、彼を捜し出して捕らえ、監禁した。 22 王は再びベトツルの人々と話し合い、和解の印として右手を差し伸べ、彼らの手を握り、そこを立ち去って、 23 ユダの軍を攻撃したが、敗北した。更に王は、アンティオキアで内政をゆだねておいたフィリポスが乱心したという知らせを聞き、すっかり狼狽した。そしてユダヤ人たちを呼び寄せ、譲歩し、すべての正当な条件を認めることを誓った。和解が成立した後、彼はいけにえを献げ、神殿に敬意を表して、その場所を丁重に扱った。 24 王はマカバイをも受け入れ、ヘゲモニデスをプトレマイスからゲラの地に至るまでの総督として残して、 25 自身はプトレマイスに赴いた。しかしプトレマイスの人々は、この一連の取り決めに反感を持ち、――事実、彼らはすっかりかたくなになっていた――この取り決めを阻止する構えでいた。 26 […]

マカバイ記 二 書簡 14

デメトリオス治下 デメトリオスの登場とアンティオコス、リシアスの死 1 それから三年後、ユダの陣営に急報が届いた。それによるとセレウコスの子デメトリオスが多数の軍隊と艦隊を率いてトリポリスの港に上陸し、 2 その地を制圧して、アンティオコスとその後見人リシアスを殺してしまったというのである。 3 ときに、かつて大祭司であったアルキモスという者がいた。抵抗運動の時期に、あえて自分を汚したこの男は、自分にはもはや救いがなく、再び聖なる祭壇に近づく道もないと悟り、 4 第百五十一年ごろデメトリオス王のもとに行き、黄金の冠としゅろの枝と、それに加えて神殿常備のオリーブの若枝を王に献上し、その日は無言で控えていた。 5 しかし、デメトリオスから会議に呼び出されて、ユダヤ人の動向とたくらみについて尋ねられると、彼は自分の愚かな考えを実行に移すのはこのときとばかり、質問に答えてこう言った。 6 「ユダ・マカバイによって指導されたハシダイと呼ばれるユダヤ人のやからが、相変わらず抵抗を続け、騒ぎを引き起こし、王国の安寧に障害となっております。 7 このようなわけで、わたしも父祖伝来の栄誉――すなわち大祭司職のことですが――を剥奪されて、今ここに参上しているのです。 8 それはまず、ひたすら陛下のことをおもんぱかり、次にはわたしの同胞について熟慮したからであります。わたしが今申し上げた連中の頑迷さには、わたしたちの民も皆、ほとほと手を焼いております。 9 陛下よ、どうかこれらのことを一つ一つお考えになり、万人に対する慈悲深い愛情をもって、この国と不遇な民のために御配慮ください。 10 ユダが生きているかぎり、陛下のお国は平和を楽しむことができないからです。」 11 彼がこう言うのを聞いて、ユダに対し、悪意を抱いている他の臣下も、こぞってデメトリオスをたきつけた。 12-13 そこで王は直ちに象部隊の指揮官ニカノルを選んで、ユダヤの総督に任命し、ユダを殺し、その部下をけ散らし、アルキモスを大いなる神殿の大祭司の座につかせよという命令を与えて派遣した。 14 そこでユダのもとから逃れていたユダヤ地方の異邦人たちは、群れを成してニカノルのもとに集まって来た。ユダヤ人の上に起こる不幸と災難は、自分たちには好都合と思っていたのである。 ニカノルとユダの和解 15 ニカノルの来襲と異邦人の攻撃を聞くと、ユダヤ人たちは塵をかぶり、御自分の民を永遠に支え、必要とあらば必ず介入して、御自身の取り分であるイスラエルの民を常に守られるお方に祈った。 16 彼らは、指揮官の命令により、直ちにそこから陣営を移し、デサウという村の付近で敵と戦いを交えた。 17 ニカノルと一戦を交えたユダの兄シモンは、敵の不意の攻撃に機先を制せられた。 18 だが一方ニカノルも、ユダの軍勢が勇敢なこと、彼らが祖国のためには決死の覚悟でいることを聞き及んでいたので、血を流して事を決するのを恐れ、 19 互いに和解の印として右手を交わし合うために、ポシドニオスとテオドトスとマタティアを遣わした。 20 指揮をとっていたユダは、この申し出を熟慮検討したうえで、部下全員に諮ったが、彼らも声をそろえて、その申し出に賛同した。 21 そこで指揮官だけで会見する日取りを決め、双方から輿一つずつを運び、二つの座席を整えた。 22 ユダは敵方のだまし討ちが起きないよう、要所要所に武装兵を配備したが、協議は順調に運んだ。 23 ニカノルはエルサレムに滞在したが、何ら不当な行動には出ず、自分のもとに家畜のように群がり集まった者たちを解散させた。 24 彼は、ユダをいつも自分のそばに置き、この男に心を引かれ、 25 彼に、結婚して子をもうけるように勧めた。ユダは結婚して平穏無事に暮らした。 アルキモスのざん言とニカノルの裏切り 26 しかしアルキモスは、二人が互いに友好的になっているのを見て取ると、デメトリオスのもとに行き、彼らの取り決めについて訴えて出た。「ニカノルは国策とは相いれない見解を持っています。王国に対する謀反人ユダを自分の後継者に取り立てたのですから。」 27 […]