マタイによる福音書 11

1 イエスは十二人の弟子に指図を与え終わると、そこを去り、方々の町で教え、宣教された。 洗礼者ヨハネとイエス 2 ヨハネは牢の中で、キリストのなさったことを聞いた。そこで、自分の弟子たちを送って、 3 尋ねさせた。「来るべき方は、あなたでしょうか。それとも、ほかの方を待たなければなりませんか。」 4 イエスはお答えになった。「行って、見聞きしていることをヨハネに伝えなさい。 5 目の見えない人は見え、足の不自由な人は歩き、重い皮膚病を患っている人は清くなり、耳の聞こえない人は聞こえ、死者は生き返り、貧しい人は福音を告げ知らされている。 6 わたしにつまずかない人は幸いである。」 7 ヨハネの弟子たちが帰ると、イエスは群衆にヨハネについて話し始められた。「あなたがたは、何を見に荒れ野へ行ったのか。風にそよぐ葦か。 8 では、何を見に行ったのか。しなやかな服を着た人か。しなやかな服を着た人なら王宮にいる。 9 では、何を見に行ったのか。預言者か。そうだ。言っておく。預言者以上の者である。 10 『見よ、わたしはあなたより先に使者を遣わし、/あなたの前に道を準備させよう』/と書いてあるのは、この人のことだ。 11 はっきり言っておく。およそ女から生まれた者のうち、洗礼者ヨハネより偉大な者は現れなかった。しかし、天の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である。 12 彼が活動し始めたときから今に至るまで、天の国は力ずくで襲われており、激しく襲う者がそれを奪い取ろうとしている。 13 すべての預言者と律法が預言したのは、ヨハネの時までである。 14 あなたがたが認めようとすれば分かることだが、実は、彼は現れるはずのエリヤである。 15 耳のある者は聞きなさい。 16 今の時代を何にたとえたらよいか。広場に座って、ほかの者にこう呼びかけている子供たちに似ている。 17 『笛を吹いたのに、/踊ってくれなかった。葬式の歌をうたったのに、/悲しんでくれなかった。』 18 ヨハネが来て、食べも飲みもしないでいると、『あれは悪霊に取りつかれている』と言い、 19 人の子が来て、飲み食いすると、『見ろ、大食漢で大酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ』と言う。しかし、知恵の正しさは、その働きによって証明される。」 悔い改めない町を叱る 20 それからイエスは、数多くの奇跡の行われた町々が悔い改めなかったので、叱り始められた。 21 「コラジン、お前は不幸だ。ベトサイダ、お前は不幸だ。お前たちのところで行われた奇跡が、ティルスやシドンで行われていれば、これらの町はとうの昔に粗布をまとい、灰をかぶって悔い改めたにちがいない。 22 しかし、言っておく。裁きの日にはティルスやシドンの方が、お前たちよりまだ軽い罰で済む。 23 また、カファルナウム、お前は、/天にまで上げられるとでも思っているのか。陰府にまで落とされるのだ。お前のところでなされた奇跡が、ソドムで行われていれば、あの町は今日まで無事だったにちがいない。 24 しかし、言っておく。裁きの日にはソドムの地の方が、お前よりまだ軽い罰で済むのである。」 わたしのもとに来なさい 25 そのとき、イエスはこう言われた。「天地の主である父よ、あなたをほめたたえます。これらのことを知恵ある者や賢い者には隠して、幼子のような者にお示しになりました。 26 そうです、父よ、これは御心に適うことでした。 […]

マタイによる福音書 12

安息日に麦の穂を摘む 1 そのころ、ある安息日にイエスは麦畑を通られた。弟子たちは空腹になったので、麦の穂を摘んで食べ始めた。 2 ファリサイ派の人々がこれを見て、イエスに、「御覧なさい。あなたの弟子たちは、安息日にしてはならないことをしている」と言った。 3 そこで、イエスは言われた。「ダビデが自分も供の者たちも空腹だったときに何をしたか、読んだことがないのか。 4 神の家に入り、ただ祭司のほかには、自分も供の者たちも食べてはならない供えのパンを食べたではないか。 5 安息日に神殿にいる祭司は、安息日の掟を破っても罪にならない、と律法にあるのを読んだことがないのか。 6 言っておくが、神殿よりも偉大なものがここにある。 7 もし、『わたしが求めるのは憐れみであって、いけにえではない』という言葉の意味を知っていれば、あなたたちは罪もない人たちをとがめなかったであろう。 8 人の子は安息日の主なのである。」 手の萎えた人をいやす 9 イエスはそこを去って、会堂にお入りになった。 10 すると、片手の萎えた人がいた。人々はイエスを訴えようと思って、「安息日に病気を治すのは、律法で許されていますか」と尋ねた。 11 そこで、イエスは言われた。「あなたたちのうち、だれか羊を一匹持っていて、それが安息日に穴に落ちた場合、手で引き上げてやらない者がいるだろうか。 12 人間は羊よりもはるかに大切なものだ。だから、安息日に善いことをするのは許されている。」 13 そしてその人に、「手を伸ばしなさい」と言われた。伸ばすと、もう一方の手のように元どおり良くなった。 14 ファリサイ派の人々は出て行き、どのようにしてイエスを殺そうかと相談した。 神が選んだ僕 15 イエスはそれを知って、そこを立ち去られた。大勢の群衆が従った。イエスは皆の病気をいやして、 16 御自分のことを言いふらさないようにと戒められた。 17 それは、預言者イザヤを通して言われていたことが実現するためであった。 18 「見よ、わたしの選んだ僕。わたしの心に適った愛する者。この僕にわたしの霊を授ける。彼は異邦人に正義を知らせる。 19 彼は争わず、叫ばず、/その声を聞く者は大通りにはいない。 20 正義を勝利に導くまで、/彼は傷ついた葦を折らず、/くすぶる灯心を消さない。 21 異邦人は彼の名に望みをかける。」 ベルゼブル論争 22 そのとき、悪霊に取りつかれて目が見えず口の利けない人が、イエスのところに連れられて来て、イエスがいやされると、ものが言え、目が見えるようになった。 23 群衆は皆驚いて、「この人はダビデの子ではないだろうか」と言った。 24 しかし、ファリサイ派の人々はこれを聞き、「悪霊の頭ベルゼブルの力によらなければ、この者は悪霊を追い出せはしない」と言った。 25 イエスは、彼らの考えを見抜いて言われた。「どんな国でも内輪で争えば、荒れ果ててしまい、どんな町でも家でも、内輪で争えば成り立って行かない。 26 […]

マタイによる福音書 13

「種を蒔く人」のたとえ 1 その日、イエスは家を出て、湖のほとりに座っておられた。 2 すると、大勢の群衆がそばに集まって来たので、イエスは舟に乗って腰を下ろされた。群衆は皆岸辺に立っていた。 3 イエスはたとえを用いて彼らに多くのことを語られた。「種を蒔く人が種蒔きに出て行った。 4 蒔いている間に、ある種は道端に落ち、鳥が来て食べてしまった。 5 ほかの種は、石だらけで土の少ない所に落ち、そこは土が浅いのですぐ芽を出した。 6 しかし、日が昇ると焼けて、根がないために枯れてしまった。 7 ほかの種は茨の間に落ち、茨が伸びてそれをふさいでしまった。 8 ところが、ほかの種は、良い土地に落ち、実を結んで、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。 9 耳のある者は聞きなさい。」 たとえを用いて話す理由 10 弟子たちはイエスに近寄って、「なぜ、あの人たちにはたとえを用いてお話しになるのですか」と言った。 11 イエスはお答えになった。「あなたがたには天の国の秘密を悟ることが許されているが、あの人たちには許されていないからである。 12 持っている人は更に与えられて豊かになるが、持っていない人は持っているものまでも取り上げられる。 13 だから、彼らにはたとえを用いて話すのだ。見ても見ず、聞いても聞かず、理解できないからである。 14 イザヤの預言は、彼らによって実現した。『あなたたちは聞くには聞くが、決して理解せず、/見るには見るが、決して認めない。 15 この民の心は鈍り、/耳は遠くなり、/目は閉じてしまった。こうして、彼らは目で見ることなく、/耳で聞くことなく、/心で理解せず、悔い改めない。わたしは彼らをいやさない。』 16 しかし、あなたがたの目は見ているから幸いだ。あなたがたの耳は聞いているから幸いだ。 17 はっきり言っておく。多くの預言者や正しい人たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」 「種を蒔く人」のたとえの説明 18 「だから、種を蒔く人のたとえを聞きなさい。 19 だれでも御国の言葉を聞いて悟らなければ、悪い者が来て、心の中に蒔かれたものを奪い取る。道端に蒔かれたものとは、こういう人である。 20 石だらけの所に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて、すぐ喜んで受け入れるが、 21 自分には根がないので、しばらくは続いても、御言葉のために艱難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう人である。 22 茨の中に蒔かれたものとは、御言葉を聞くが、世の思い煩いや富の誘惑が御言葉を覆いふさいで、実らない人である。 23 良い土地に蒔かれたものとは、御言葉を聞いて悟る人であり、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍の実を結ぶのである。」 「毒麦」のたとえ 24 イエスは、別のたとえを持ち出して言われた。「天の国は次のようにたとえられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。 25 人々が眠っている間に、敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。 26 […]

マタイによる福音書 14

洗礼者ヨハネ、殺される 1 そのころ、領主ヘロデはイエスの評判を聞き、 2 家来たちにこう言った。「あれは洗礼者ヨハネだ。死者の中から生き返ったのだ。だから、奇跡を行う力が彼に働いている。」 3 実はヘロデは、自分の兄弟フィリポの妻ヘロディアのことでヨハネを捕らえて縛り、牢に入れていた。 4 ヨハネが、「あの女と結婚することは律法で許されていない」とヘロデに言ったからである。 5 ヘロデはヨハネを殺そうと思っていたが、民衆を恐れた。人々がヨハネを預言者と思っていたからである。 6 ところが、ヘロデの誕生日にヘロディアの娘が、皆の前で踊りをおどり、ヘロデを喜ばせた。 7 それで彼は娘に、「願うものは何でもやろう」と誓って約束した。 8 すると、娘は母親に唆されて、「洗礼者ヨハネの首を盆に載せて、この場でください」と言った。 9 王は心を痛めたが、誓ったことではあるし、また客の手前、それを与えるように命じ、 10 人を遣わして、牢の中でヨハネの首をはねさせた。 11 その首は盆に載せて運ばれ、少女に渡り、少女はそれを母親に持って行った。 12 それから、ヨハネの弟子たちが来て、遺体を引き取って葬り、イエスのところに行って報告した。 五千人に食べ物を与える 13 イエスはこれを聞くと、舟に乗ってそこを去り、ひとり人里離れた所に退かれた。しかし、群衆はそのことを聞き、方々の町から歩いて後を追った。 14 イエスは舟から上がり、大勢の群衆を見て深く憐れみ、その中の病人をいやされた。 15 夕暮れになったので、弟子たちがイエスのそばに来て言った。「ここは人里離れた所で、もう時間もたちました。群衆を解散させてください。そうすれば、自分で村へ食べ物を買いに行くでしょう。」 16 イエスは言われた。「行かせることはない。あなたがたが彼らに食べる物を与えなさい。」 17 弟子たちは言った。「ここにはパン五つと魚二匹しかありません。」 18 イエスは、「それをここに持って来なさい」と言い、 19 群衆には草の上に座るようにお命じになった。そして、五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで賛美の祈りを唱え、パンを裂いて弟子たちにお渡しになった。弟子たちはそのパンを群衆に与えた。 20 すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二の籠いっぱいになった。 21 食べた人は、女と子供を別にして、男が五千人ほどであった。 湖の上を歩く 22 それからすぐ、イエスは弟子たちを強いて舟に乗せ、向こう岸へ先に行かせ、その間に群衆を解散させられた。 23 群衆を解散させてから、祈るためにひとり山にお登りになった。夕方になっても、ただひとりそこにおられた。 24 ところが、舟は既に陸から何スタディオンか離れており、逆風のために波に悩まされていた。 25 夜が明けるころ、イエスは湖の上を歩いて弟子たちのところに行かれた。 26 弟子たちは、イエスが湖上を歩いておられるのを見て、「幽霊だ」と言っておびえ、恐怖のあまり叫び声をあげた。 […]

マタイによる福音書 15

昔の人の言い伝え 1 そのころ、ファリサイ派の人々と律法学者たちが、エルサレムからイエスのもとへ来て言った。 2 「なぜ、あなたの弟子たちは、昔の人の言い伝えを破るのですか。彼らは食事の前に手を洗いません。」 3 そこで、イエスはお答えになった。「なぜ、あなたたちも自分の言い伝えのために、神の掟を破っているのか。 4 神は、『父と母を敬え』と言い、『父または母をののしる者は死刑に処せられるべきである』とも言っておられる。 5 それなのに、あなたたちは言っている。『父または母に向かって、「あなたに差し上げるべきものは、神への供え物にする」と言う者は、 6 父を敬わなくてもよい』と。こうして、あなたたちは、自分の言い伝えのために神の言葉を無にしている。 7 偽善者たちよ、イザヤは、あなたたちのことを見事に預言したものだ。 8 『この民は口先ではわたしを敬うが、/その心はわたしから遠く離れている。 9 人間の戒めを教えとして教え、/むなしくわたしをあがめている。』」 10 それから、イエスは群衆を呼び寄せて言われた。「聞いて悟りなさい。 11 口に入るものは人を汚さず、口から出て来るものが人を汚すのである。」 12 そのとき、弟子たちが近寄って来て、「ファリサイ派の人々がお言葉を聞いて、つまずいたのをご存じですか」と言った。 13 イエスはお答えになった。「わたしの天の父がお植えにならなかった木は、すべて抜き取られてしまう。 14 そのままにしておきなさい。彼らは盲人の道案内をする盲人だ。盲人が盲人の道案内をすれば、二人とも穴に落ちてしまう。」 15 するとペトロが、「そのたとえを説明してください」と言った。 16 イエスは言われた。「あなたがたも、まだ悟らないのか。 17 すべて口に入るものは、腹を通って外に出されることが分からないのか。 18 しかし、口から出て来るものは、心から出て来るので、これこそ人を汚す。 19 悪意、殺意、姦淫、みだらな行い、盗み、偽証、悪口などは、心から出て来るからである。 20 これが人を汚す。しかし、手を洗わずに食事をしても、そのことは人を汚すものではない。」 カナンの女の信仰 21 イエスはそこをたち、ティルスとシドンの地方に行かれた。 22 すると、この地に生まれたカナンの女が出て来て、「主よ、ダビデの子よ、わたしを憐れんでください。娘が悪霊にひどく苦しめられています」と叫んだ。 23 しかし、イエスは何もお答えにならなかった。そこで、弟子たちが近寄って来て願った。「この女を追い払ってください。叫びながらついて来ますので。」 24 イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊のところにしか遣わされていない」とお答えになった。 25 しかし、女は来て、イエスの前にひれ伏し、「主よ、どうかお助けください」と言った。 26 イエスが、「子供たちのパンを取って小犬にやってはいけない」とお答えになると、 27 […]

マタイによる福音書 16

人々はしるしを欲しがる 1 ファリサイ派とサドカイ派の人々が来て、イエスを試そうとして、天からのしるしを見せてほしいと願った。 2 イエスはお答えになった。「あなたたちは、夕方には『夕焼けだから、晴れだ』と言い、 3 朝には『朝焼けで雲が低いから、今日は嵐だ』と言う。このように空模様を見分けることは知っているのに、時代のしるしは見ることができないのか。 4 よこしまで神に背いた時代の者たちはしるしを欲しがるが、ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。」そして、イエスは彼らを後に残して立ち去られた。 ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種 5 弟子たちは向こう岸に行ったが、パンを持って来るのを忘れていた。 6 イエスは彼らに、「ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種によく注意しなさい」と言われた。 7 弟子たちは、「これは、パンを持って来なかったからだ」と論じ合っていた。 8 イエスはそれに気づいて言われた。「信仰の薄い者たちよ、なぜ、パンを持っていないことで論じ合っているのか。 9 まだ、分からないのか。覚えていないのか。パン五つを五千人に分けたとき、残りを幾籠に集めたか。 10 また、パン七つを四千人に分けたときは、残りを幾籠に集めたか。 11 パンについて言ったのではないことが、どうして分からないのか。ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種に注意しなさい。」 12 そのときようやく、弟子たちは、イエスが注意を促されたのは、パン種のことではなく、ファリサイ派とサドカイ派の人々の教えのことだと悟った。 ペトロ、信仰を言い表す 13 イエスは、フィリポ・カイサリア地方に行ったとき、弟子たちに、「人々は、人の子のことを何者だと言っているか」とお尋ねになった。 14 弟子たちは言った。「『洗礼者ヨハネだ』と言う人も、『エリヤだ』と言う人もいます。ほかに、『エレミヤだ』とか、『預言者の一人だ』と言う人もいます。」 15 イエスが言われた。「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」 16 シモン・ペトロが、「あなたはメシア、生ける神の子です」と答えた。 17 すると、イエスはお答えになった。「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、わたしの天の父なのだ。 18 わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。 19 わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」 20 それから、イエスは、御自分がメシアであることをだれにも話さないように、と弟子たちに命じられた。 イエス、死と復活を予告する 21 このときから、イエスは、御自分が必ずエルサレムに行って、長老、祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受けて殺され、三日目に復活することになっている、と弟子たちに打ち明け始められた。 22 すると、ペトロはイエスをわきへお連れして、いさめ始めた。「主よ、とんでもないことです。そんなことがあってはなりません。」 23 イエスは振り向いてペトロに言われた。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者。神のことを思わず、人間のことを思っている。」 24 それから、弟子たちに言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。 25 自分の命を救いたいと思う者は、それを失うが、わたしのために命を失う者は、それを得る。 26 […]

マタイによる福音書 17

イエスの姿が変わる 1 六日の後、イエスは、ペトロ、それにヤコブとその兄弟ヨハネだけを連れて、高い山に登られた。 2 イエスの姿が彼らの目の前で変わり、顔は太陽のように輝き、服は光のように白くなった。 3 見ると、モーセとエリヤが現れ、イエスと語り合っていた。 4 ペトロが口をはさんでイエスに言った。「主よ、わたしたちがここにいるのは、すばらしいことです。お望みでしたら、わたしがここに仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたのため、一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためです。」 5 ペトロがこう話しているうちに、光り輝く雲が彼らを覆った。すると、「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者。これに聞け」という声が雲の中から聞こえた。 6 弟子たちはこれを聞いてひれ伏し、非常に恐れた。 7 イエスは近づき、彼らに手を触れて言われた。「起きなさい。恐れることはない。」 8 彼らが顔を上げて見ると、イエスのほかにはだれもいなかった。 9 一同が山を下りるとき、イエスは、「人の子が死者の中から復活するまで、今見たことをだれにも話してはならない」と弟子たちに命じられた。 10 彼らはイエスに、「なぜ、律法学者は、まずエリヤが来るはずだと言っているのでしょうか」と尋ねた。 11 イエスはお答えになった。「確かにエリヤが来て、すべてを元どおりにする。 12 言っておくが、エリヤは既に来たのだ。人々は彼を認めず、好きなようにあしらったのである。人の子も、そのように人々から苦しめられることになる。」 13 そのとき、弟子たちは、イエスが洗礼者ヨハネのことを言われたのだと悟った。 悪霊に取りつかれた子をいやす 14 一同が群衆のところへ行くと、ある人がイエスに近寄り、ひざまずいて、 15 言った。「主よ、息子を憐れんでください。てんかんでひどく苦しんでいます。度々火の中や水の中に倒れるのです。 16 お弟子たちのところに連れて来ましたが、治すことができませんでした。」 17 イエスはお答えになった。「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか。いつまでわたしはあなたがたと共にいられようか。いつまで、あなたがたに我慢しなければならないのか。その子をここに、わたしのところに連れて来なさい。」 18 そして、イエスがお叱りになると、悪霊は出て行き、そのとき子供はいやされた。 19 弟子たちはひそかにイエスのところに来て、「なぜ、わたしたちは悪霊を追い出せなかったのでしょうか」と言った。 20 イエスは言われた。「信仰が薄いからだ。はっきり言っておく。もし、からし種一粒ほどの信仰があれば、この山に向かって、『ここから、あそこに移れ』と命じても、そのとおりになる。あなたがたにできないことは何もない。」 21 † 再び自分の死と復活を予告する 22 一行がガリラヤに集まったとき、イエスは言われた。「人の子は人々の手に引き渡されようとしている。 23 そして殺されるが、三日目に復活する。」弟子たちは非常に悲しんだ。 神殿税を納める 24 一行がカファルナウムに来たとき、神殿税を集める者たちがペトロのところに来て、「あなたたちの先生は神殿税を納めないのか」と言った。 25 ペトロは、「納めます」と言った。そして家に入ると、イエスの方から言いだされた。「シモン、あなたはどう思うか。地上の王は、税や貢ぎ物をだれから取り立てるのか。自分の子供たちからか、それともほかの人々からか。」 26 […]

マタイによる福音書 18

天の国でいちばん偉い者 1 そのとき、弟子たちがイエスのところに来て、「いったいだれが、天の国でいちばん偉いのでしょうか」と言った。 2 そこで、イエスは一人の子供を呼び寄せ、彼らの中に立たせて、 3 言われた。「はっきり言っておく。心を入れ替えて子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできない。 4 自分を低くして、この子供のようになる人が、天の国でいちばん偉いのだ。 5 わたしの名のためにこのような一人の子供を受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。」 罪への誘惑 6 「しかし、わたしを信じるこれらの小さな者の一人をつまずかせる者は、大きな石臼を首に懸けられて、深い海に沈められる方がましである。 7 世は人をつまずかせるから不幸だ。つまずきは避けられない。だが、つまずきをもたらす者は不幸である。 8 もし片方の手か足があなたをつまずかせるなら、それを切って捨ててしまいなさい。両手両足がそろったまま永遠の火に投げ込まれるよりは、片手片足になっても命にあずかる方がよい。 9 もし片方の目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して捨ててしまいなさい。両方の目がそろったまま火の地獄に投げ込まれるよりは、一つの目になっても命にあずかる方がよい。」 「迷い出た羊」のたとえ 10 「これらの小さな者を一人でも軽んじないように気をつけなさい。言っておくが、彼らの天使たちは天でいつもわたしの天の父の御顔を仰いでいるのである。 11 † 12 あなたがたはどう思うか。ある人が羊を百匹持っていて、その一匹が迷い出たとすれば、九十九匹を山に残しておいて、迷い出た一匹を捜しに行かないだろうか。 13 はっきり言っておくが、もし、それを見つけたら、迷わずにいた九十九匹より、その一匹のことを喜ぶだろう。 14 そのように、これらの小さな者が一人でも滅びることは、あなたがたの天の父の御心ではない。」 兄弟の忠告 15 「兄弟があなたに対して罪を犯したなら、行って二人だけのところで忠告しなさい。言うことを聞き入れたら、兄弟を得たことになる。 16 聞き入れなければ、ほかに一人か二人、一緒に連れて行きなさい。すべてのことが、二人または三人の証人の口によって確定されるようになるためである。 17 それでも聞き入れなければ、教会に申し出なさい。教会の言うことも聞き入れないなら、その人を異邦人か徴税人と同様に見なしなさい。 18 はっきり言っておく。あなたがたが地上でつなぐことは、天上でもつながれ、あなたがたが地上で解くことは、天上でも解かれる。 19 また、はっきり言っておくが、どんな願い事であれ、あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる。 20 二人または三人がわたしの名によって集まるところには、わたしもその中にいるのである。」 「仲間を赦さない家来」のたとえ 21 そのとき、ペトロがイエスのところに来て言った。「主よ、兄弟がわたしに対して罪を犯したなら、何回赦すべきでしょうか。七回までですか。」 22 イエスは言われた。「あなたに言っておく。七回どころか七の七十倍までも赦しなさい。 23 そこで、天の国は次のようにたとえられる。ある王が、家来たちに貸した金の決済をしようとした。 24 決済し始めたところ、一万タラントン借金している家来が、王の前に連れて来られた。 25 しかし、返済できなかったので、主君はこの家来に、自分も妻も子も、また持ち物も全部売って返済するように命じた。 […]

マタイによる福音書 19

離縁について教える 1 イエスはこれらの言葉を語り終えると、ガリラヤを去り、ヨルダン川の向こう側のユダヤ地方に行かれた。 2 大勢の群衆が従った。イエスはそこで人々の病気をいやされた。 3 ファリサイ派の人々が近寄り、イエスを試そうとして、「何か理由があれば、夫が妻を離縁することは、律法に適っているでしょうか」と言った。 4 イエスはお答えになった。「あなたたちは読んだことがないのか。創造主は初めから人を男と女とにお造りになった。」 5 そして、こうも言われた。「それゆえ、人は父母を離れてその妻と結ばれ、二人は一体となる。 6 だから、二人はもはや別々ではなく、一体である。従って、神が結び合わせてくださったものを、人は離してはならない。」 7 すると、彼らはイエスに言った。「では、なぜモーセは、離縁状を渡して離縁するように命じたのですか。」 8 イエスは言われた。「あなたたちの心が頑固なので、モーセは妻を離縁することを許したのであって、初めからそうだったわけではない。 9 言っておくが、不法な結婚でもないのに妻を離縁して、他の女を妻にする者は、姦通の罪を犯すことになる。」 10 弟子たちは、「夫婦の間柄がそんなものなら、妻を迎えない方がましです」と言った。 11 イエスは言われた。「だれもがこの言葉を受け入れるのではなく、恵まれた者だけである。 12 結婚できないように生まれついた者、人から結婚できないようにされた者もいるが、天の国のために結婚しない者もいる。これを受け入れることのできる人は受け入れなさい。」 子供を祝福する 13 そのとき、イエスに手を置いて祈っていただくために、人々が子供たちを連れて来た。弟子たちはこの人々を叱った。 14 しかし、イエスは言われた。「子供たちを来させなさい。わたしのところに来るのを妨げてはならない。天の国はこのような者たちのものである。」 15 そして、子供たちに手を置いてから、そこを立ち去られた。 金持ちの青年 16 さて、一人の男がイエスに近寄って来て言った。「先生、永遠の命を得るには、どんな善いことをすればよいのでしょうか。」 17 イエスは言われた。「なぜ、善いことについて、わたしに尋ねるのか。善い方はおひとりである。もし命を得たいのなら、掟を守りなさい。」 18 男が「どの掟ですか」と尋ねると、イエスは言われた。「『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、 19 父母を敬え、また、隣人を自分のように愛しなさい。』」 20 そこで、この青年は言った。「そういうことはみな守ってきました。まだ何か欠けているでしょうか。」 21 イエスは言われた。「もし完全になりたいのなら、行って持ち物を売り払い、貧しい人々に施しなさい。そうすれば、天に富を積むことになる。それから、わたしに従いなさい。」 22 青年はこの言葉を聞き、悲しみながら立ち去った。たくさんの財産を持っていたからである。 23 イエスは弟子たちに言われた。「はっきり言っておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。 24 重ねて言うが、金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい。」 25 弟子たちはこれを聞いて非常に驚き、「それでは、だれが救われるのだろうか」と言った。 26 イエスは彼らを見つめて、「それは人間にできることではないが、神は何でもできる」と言われた。 […]

マタイによる福音書 20

「ぶどう園の労働者」のたとえ 1 「天の国は次のようにたとえられる。ある家の主人が、ぶどう園で働く労働者を雇うために、夜明けに出かけて行った。 2 主人は、一日につき一デナリオンの約束で、労働者をぶどう園に送った。 3 また、九時ごろ行ってみると、何もしないで広場に立っている人々がいたので、 4 『あなたたちもぶどう園に行きなさい。ふさわしい賃金を払ってやろう』と言った。 5 それで、その人たちは出かけて行った。主人は、十二時ごろと三時ごろにまた出て行き、同じようにした。 6 五時ごろにも行ってみると、ほかの人々が立っていたので、『なぜ、何もしないで一日中ここに立っているのか』と尋ねると、 7 彼らは、『だれも雇ってくれないのです』と言った。主人は彼らに、『あなたたちもぶどう園に行きなさい』と言った。 8 夕方になって、ぶどう園の主人は監督に、『労働者たちを呼んで、最後に来た者から始めて、最初に来た者まで順に賃金を払ってやりなさい』と言った。 9 そこで、五時ごろに雇われた人たちが来て、一デナリオンずつ受け取った。 10 最初に雇われた人たちが来て、もっと多くもらえるだろうと思っていた。しかし、彼らも一デナリオンずつであった。 11 それで、受け取ると、主人に不平を言った。 12 『最後に来たこの連中は、一時間しか働きませんでした。まる一日、暑い中を辛抱して働いたわたしたちと、この連中とを同じ扱いにするとは。』 13 主人はその一人に答えた。『友よ、あなたに不当なことはしていない。あなたはわたしと一デナリオンの約束をしたではないか。 14 自分の分を受け取って帰りなさい。わたしはこの最後の者にも、あなたと同じように支払ってやりたいのだ。 15 自分のものを自分のしたいようにしては、いけないか。それとも、わたしの気前のよさをねたむのか。』 16 このように、後にいる者が先になり、先にいる者が後になる。」 イエス、三度死と復活を予告する 17 イエスはエルサレムへ上って行く途中、十二人の弟子だけを呼び寄せて言われた。 18 「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子は、祭司長たちや律法学者たちに引き渡される。彼らは死刑を宣告して、 19 異邦人に引き渡す。人の子を侮辱し、鞭打ち、十字架につけるためである。そして、人の子は三日目に復活する。」 ヤコブとヨハネの母の願い 20 そのとき、ゼベダイの息子たちの母が、その二人の息子と一緒にイエスのところに来て、ひれ伏し、何かを願おうとした。 21 イエスが、「何が望みか」と言われると、彼女は言った。「王座にお着きになるとき、この二人の息子が、一人はあなたの右に、もう一人は左に座れるとおっしゃってください。」 22 イエスはお答えになった。「あなたがたは、自分が何を願っているか、分かっていない。このわたしが飲もうとしている杯を飲むことができるか。」二人が、「できます」と言うと、 23 イエスは言われた。「確かに、あなたがたはわたしの杯を飲むことになる。しかし、わたしの右と左にだれが座るかは、わたしの決めることではない。それは、わたしの父によって定められた人々に許されるのだ。」 24 ほかの十人の者はこれを聞いて、この二人の兄弟のことで腹を立てた。 25 そこで、イエスは一同を呼び寄せて言われた。「あなたがたも知っているように、異邦人の間では支配者たちが民を支配し、偉い人たちが権力を振るっている。 26 しかし、あなたがたの間では、そうであってはならない。あなたがたの中で偉くなりたい者は、皆に仕える者になり、 […]